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第壱話
俺は普通の会社に働く、本当にごく普通のサラリーマンだ。会社でもあまり親しい仲と呼べる人もいない。そういうのも、俺はほかの社員と比べ出世欲というものがどうやら少し薄いみたいだ。なので、上司に無駄に媚を売ることもないし、同僚と無駄に仲良くしようなんて言う気もさらさらない。でも自分的には満足に毎日生活を送っているつもりだ。
「あれ、ゆーま、またお昼一人で食べるの?一緒に食べにいこーよ。」
そしてそんな不愛想な俺になぜか友好的に接してくるこの人は
上司の ”坂口 ゆうこ” だ。
「またあそこ行くんですか?まあ、別にいいですけど」
「まあまあ、私は昼ご飯にいちいち悩んでいるほど暇じゃないのだよ」
「なんですかその理屈・・・。」
と、このように俺が会社でも私生活でも唯一信頼していて腹を割って話すことのできる友人でもある。ここだけみれば何のことない仲の良い上司と部下という関係なのだが俺たちの関係というのは少し違うんだ。
会社から10分ほど歩くと地元の夫婦が経営している定食屋についた。
ついたと同時に坂口は入り口ののサンプル品やメニューを見始めた。
「ふうーーー。やっとついた!今日はなににしようかなー??」
「坂口さんいつもそれ言ってますけど、だいたいいつも同じもの頼んでますよね?」(毎度毎度よくこんな楽しそうに悩めるなと感心すらしてしまう)
「ちっちっち、分かってないなゆーま君よ。こうやって日常の中にも楽しみを見出すことが人生を楽しくするコツだよ」
(さっきと言っていることが矛盾してるな、と思いつつも)
「はいはい、はやく入りましょう。」
このまま入り口の食品サンプルを見ている坂口に付き合い時間を無駄にする未来は見えていたので、俺はさっさと店に入ることにした。
「いらっしゃーい。あら、また来てくれたのねー。テーブルとカウンターどちらでも好きなほうにどうぞ」
「どうも・・・。」
俺はこういったコミュニケーションというものが苦手だ。まあ、いわゆる人見知りというやつだ。俺が入ってすぐ、坂口が入ってきて、
「おばちゃんー、また来たよー。」
「あらあら、ゆうこちゃん。よく来たわねー。今日はどうするのー?」
「んーとね、悩んでるんだよねー。今日のおすすめとかあるー?」
「あらそうなの、今日はね・・・・・。」
と、二人が談笑しているのを見ながら本当に何故俺はあの人と仲がいいんだろうなと素朴に疑問に思う。そう、坂口は俺とは違いかなりコミュニケーション能力が高く仕事もでき、さらにはそこそこの容姿も持っていることから、社内でも大人気で敵を作らない人間だ。
「ふー、ごめんごめんお待たせ。今日のおすすめは煮魚定食だって・・・。どしたの?ボーッとこっち見て」
そんなことを考えていたら無意識に俺はこの人の顔を目で追ってしまっていたみたいだ。
「いや、やっぱり坂口さんはすごいなーって改めて思って」
「なんだ今更先輩のすごさに気付いたのか。まぁ、尊敬をしてもらっても構わんよ」
「やっぱり何でもないです・・・。」
(多分こういう性格も敵を作らない要因なのだな)
「それで何にするのか決めたんですか?」
「もちろん煮魚定食を食べるよ。奥さんのおすすめだしね」
「ふーん、じゃあ僕はとんかつ定食にします」
「よし、おばちゃーん。煮魚定食ととんかつ定食で!」
「はいよー」
と、注文を終えたので俺は携帯をチェックしようとした、すると、
「それでね、ゆーま。実は今日も”おもしろい話”があるんだけど。」
そう、この”おもしろい話”というのが俺と坂口の関係が先ほども言ったように少し他と比べると違うという理由にもなるんだ。
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