虹色の記憶

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そんな村だから 嵐や津波は それは一大事でした。 私が5つの春のこと 大きな津波があって 村では随分被害が出ました。 家も舟も人も たくさん流されてしまった 家と言ったって 村には大きな家なんて一軒もない 小さな漁師の家ばかり うちでは家ももちろん 大切なオットウの舟と もっと、もっと大切な ババさまと ババさまがおぶってお守してた 2つになる妹のユイが 逃げ遅れて流されてしまいました。 大潮や津波の時は 日和見(ひよりみ)山に 駆け上がって逃げる決まりだったけど ババさまとユイは 間に合わなかった 夕方になって 津波の引いた渚を オッカアとオットウが 気が狂ったようになって ババさまー ユイー と叫びながら 探し回っていたのを おぼろげに覚えています。 村の大勢の人が泣きながら 日がすっかり暮れて暗くなるまで 誰かを呼んで、探してました。 私はこわくて波打ち際から遠くの 砂の上に立って ただ、それを見ていました。 見たこともない 海の深ぁいところの海草が 引きちぎられ 打ち上げられて 波打ち際にぬらぬらと 月の光で光ってたのを 今でも忘れることができません。 津波が去ったその晩は 本当に、綺麗な月夜で 海は嘘のように凪いでいました。
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