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 元来貧乏性な俺は、女が万引きして俺が代金を支払わされた弁当を、勿体無いのでとりあえず全部平らげた。 「美味しい?」という女に向け「これはたぶんチキン南蛮弁当だな」と皮肉で返してやったのであるが。  なのに、そんな意地悪な俺の顔に向け、女はにっこりと笑顔(多分そうだ)を向け「よかった」などと言った。  俺は一瞬何かに胸を射抜かれたように息苦しくなったような気もしたが、それは多分気のせいだ。俺は喉に詰まったものをお茶で強引に胃酸の海へと飲み下した。美味いもなにも、美味くなくてどうする。俺が弁当代を払っているのだ。それも、俺の金を盗んだ女の分まで!    結局俺に残されたのは、盗まれた金の残りと、へそくりの残り合わせて二万二千六百円と、このおかしな女だけだった。  弁当を食い終わり、腹を満たした俺は、女に「警察には突き出さないから家へ帰れよ」と言ったのだが、女は動こうとしない。仕方がないので「名前と住所は?」といっても、ただ黙っているだけだ。やはり警察に届けるしかないのだろうか。
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