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四
アパートの共用通路へ出て携帯電話で警察に相談する間に、女には紙とペンを与え住所氏名を書くように促した。
通路では赤ちゃんを抱きかかえた隣の本埜さんが煙草を吹かしていたので軽く会釈する。子供を抱えて外で煙草を吸うって、意味がわからない。双子の旦那と四人で同居とか、この隣の新婚夫婦も変わった人たちである。
警察はというと、署を訪ねて書類を書けという。一度は助けたのに、悪いけど警察に届けなければならない。女の所為で今月の生活費は二万二千六百円しか残っていないのだ。二万二千六百円しかだ。『女の所為ですっからかんだ!』あっ! このフレーズ、なんか気恥ずかしい。年甲斐もなく(とはいえまだ二十五なのだが)俺は、ちょっと赤面していた。そんな俺に向け本埜さんは微笑した。俺は兄か弟かわからない本埜さんに向け微笑を返した。赤ちゃんはキャッキャと無邪気な笑い声をあげていた。
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