13人が本棚に入れています
本棚に追加
外に居たのは、このアパートの大家さんだった。出っ張った腹を戸口に押し込み凄んでいる。
「すいません。急いでいたもので……」
身長百八十センチ、体重七十二キロの立派な体格をした若者である俺の腰が、途端に三十センチメートルほど低くなり、ずんぐりむっくりとした大家さんよりも目線が下がっていた。
「渡り廊下は狭いんだから、気を付けてもらわないと困るねぇ。あたしだから良かったものの、よそ様に怪我なんてさせたら警察沙汰だよ!」
正論には滅法弱い俺であった。こういう時には兎に角、平謝りしかない。ますます俺の腰が下がってゆく。
「で、今日来たのは部屋代のことなんだけど――」
大家さんは、どんどん低くなってゆく俺越しに、奥のテーブルで一心不乱に落書きをしている女を見止めたらしい。
「あらやだ! 真面目だと思ってたのに、あんたも隅に置けないねぇ」
最初のコメントを投稿しよう!