5/5
前へ
/21ページ
次へ
 外に居たのは、このアパートの大家さんだった。出っ張った腹を戸口に押し込み凄んでいる。 「すいません。急いでいたもので……」  身長百八十センチ、体重七十二キロの立派な体格をした若者である俺の腰が、途端に三十センチメートルほど低くなり、ずんぐりむっくりとした大家さんよりも目線が下がっていた。 「渡り廊下は狭いんだから、気を付けてもらわないと困るねぇ。あたしだから良かったものの、よそ様に怪我なんてさせたら警察沙汰だよ!」  正論には滅法弱い俺であった。こういう時には兎に角、平謝りしかない。ますます俺の腰が下がってゆく。 「で、今日来たのは部屋代のことなんだけど――」  大家さんは、どんどん低くなってゆく俺越しに、奥のテーブルで一心不乱(いっしんふらん)に落書きをしている女を見止めたらしい。 「あらやだ! 真面目だと思ってたのに、あんたも隅に置けないねぇ」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加