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二
俺は、はたと気がついた。居酒屋の帰り、寿司屋で明日の朝食用にと寿司折を買って手に提げていたのだ。寿司折の入ったビニール袋は、暗闇の中でもその白く艶やかな光沢ある『寿司兄貴』という屋号を不気味に照らしだしていた。
それに気づいた俺が、袋をさりげなく身体の陰に隠せども、もう遅い。この目敏い女は、別に車に撥ねられたとか酔い潰れていたとか、よくある道路に倒れている女などではなく、ただ単に道に行き倒れていただけの、なんとも非常識な女であったらしい。などと思いながら、女に朝食用の寿司折を奪われてしまった俺は、仕方なく女が寿司を食うのを見届けると家路についた筈だ。
そう、俺は女が寿司を全部食い終わる前に、その他人のアパートの敷地内にある薄暗い照明が灯る駐輪スペースをあとにしていた。何か嫌な予感がしていたからである。俺の予感はよく当たるのだ。建築現場で何度命を救われたことか、わかったもんじゃない。それで、自分には工事の仕事は向いていないのだと悟った。体力くらいしか取り得のない俺は、外国人たちと共に建築現場で働いていたのであるが、割りのいい現場仕事を辞めて、今はコンビニで時給八百二十円の店員をしている。
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