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「おい、河野しっかりしろよ!!」
そんな河野の様子に耐え切れなかったのか、田口は河野の正面に回りこんだ。
そして、その目をしっかり見ながら強い口調で言った。
「よりにもよってここで……この場所で!! チャラついた奴らを楽しませていいのかよ!!」
かつて、オタク狩りにも遭った田口は、ああいう連中への憎しみが人一倍強い。
指ぬきグローブをはめた手を固く握り、それをぶるぶると震わせてまでいた。
思えば思うほどに怒りが込み上げて来るらしい。
既に怖い、という感情はどこかへすっ飛んでいるようだ。
「すっげー、サイコーだったじゃーん!! またやっちゃうんで、そこんとこシクヨロー……とか言わせて良いのかよ!?」
感性に絶妙な偏りを感じつつ、田口の怒りを利用しない手はないので、俺は黙って隣で頷いた。
そんな俺と田口を交互に見て、やがてやるしかないと悟ったのか口元を引き締めて頷いた。
「俺も嫌だ……。あいつらには酷い目に遭って欲しい……」
ようやく河野も腹を括ると言う事を覚えたらしい。
今や彼は立派な勇者だ。
……色々遅すぎた気もするが、今は言うまい。
「大丈夫だよ河野。俺達、この日に向けて特訓したじゃないか。おどろおどろしい嗄れ声を出せるように、デスメタル経験者にコーチを頼み込んだり、雰囲気ある木の葉のざわめかせ方を大道具係だった奴に学んだりしたろ?」
俺の言葉に河野は頷く。
「ああ、やった……」
「ラップ音も出せるようになったし、小石ぐらいなら投げられるようになったじゃないか」
「なった、そうだった」
河野の顔は次第に上向いていった。自信の表れと言ったところか。
そう、俺達は何もぶっつけ本番で挑もうとしているわけじゃない。
この肝試しを潰すため、ちゃんと時間をかけて準備してきたのだ。
負けられない戦いだ。それだけに緊張もしている。
真夜中の墓地は怖くて、気を抜くとテンパりそうでもある。
でも、練習は裏切らない……はずだ。
それは未だって変わる事のない真実であって欲しい。
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