第1話 MAZE

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 邪見羅は二足歩行型のモンスターである。異様に盛り上がった両肩と顔面が融合しており、壁土のようなかさかさの肉体に無数の罅割れが走っていた。身長が高い。長身を誇る黒騎士、赤騎士と比較しても、頭ひとつ分は確実に高かった。床まで届きそうな長い腕の先には、鋭い爪を備える五指を有していた。  仲間二体を黒騎士に斬り伏せられた邪見羅C・D・Eの両眼が、憎悪の色に染まっていた。獰猛に開かれた口中から、帯状の火炎が迸って、黒騎士を襲った。その攻撃を予測していたかのように、黒騎士はその場に身を沈め、片膝を床につきざまに、愛剣を前面に繰り出していた。  黒騎士の剣が虚空に芸術的な軌跡を描いていた。次の瞬間、邪見羅Cの左右の太股が切断されていた。魂消る絶叫を炸裂させながら、邪見羅Cの胴体が、地響きを立てて床に落下した。四つの断面から、大量の血飛沫が噴出していた。  黒騎士は体勢を整えると、鮮血が絡みついた愛剣を、邪見羅Dの足元から頭上へと、猛烈な勢いで跳ね上げた。三日月形の金属光が駆け抜けたかと思うと、邪見羅Dの肉体が、左と右に分断されていた。その刹那、怪物の体内構造が鮮明に視認できた。だが、次の刹那には、大量の血潮と内臓一式が先を争うみたいに湧出し、何もわからなくなった。  黒騎士は邪見羅Dの絶命を確かめようともせず、床面で激しくもがいている邪見羅Cの背中を右足で押さえつけると、逆さに構えた愛剣を、怪物の後頭部に潜り込ませた。怪物の体は、それでももがこうとしていたが、命令器官を完全に破砕されて、間もなく動きを止めた。  最後の一体となった邪見羅Eは赤騎士に体当たりを試みたが、あっさりとかわされ、壁面に衝突した。邪見羅Eは二度目の体当たりを敢行すると見せかけて、最強の攻撃である火炎放射に攻撃を変更しようとした。  次の瞬間、邪見羅Eが振り返るのを待っていたかのように、赤騎士の大刀の切っ先が、怪物の口内に滑り込んでいた。肉の裏側を突き破った大刀が、刀身に血の糸を絡ませながら、虚空に飛び出した。  赤騎士が刀を引き抜くと、邪見羅Eは顔の前後から、血の噴泉をばら撒きながら、その場に崩れ落ちた。  戦闘は終了していた。五つの死体が床の上に無惨に転がっていた。物凄い血臭が辺りを制圧していた。勝利者である黒騎士と赤騎士は、刃の表面に付着した血液を拭い取ると、機械的な動作で武器を鞘に納めた。
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