第1話 MAZE

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 やや離れた位置から、二騎士対五怪物の戦況を見守っていた蟹騎士が、終了と同時に動き出していた。床面に倒れている邪見羅の五死体を転がしたり、ひっくり返したりしている。  どうやら蟹騎士は「何か」を探しているらしい。その様子を、黒赤、両騎士は無言で眺めていた。眺めているだけで、その作業には決して加わろうとしなかった。あるいは、新たな魔群の襲来に備えているのかも知れない。三騎士の中で、明確な役割分担がなされているとも考えられた。戦闘は黒と赤、探索は蟹と云うように。  作業開始から数イム(分)が経過していた。蟹騎士は五つの物体を探り出していた。それらは『鍵』と呼びたくなる形状をしていた。実際、鍵の機能を備えているように思われた。蟹は満足気にうなずくと、嬉しそうな声で「大当たりやで」と、つぶやいた。最盛期の永井一郎そっくりの声であった。  蟹騎士は腰に吊るした皮袋のひとつに五本の鍵を丁寧にしまい込んだ。それが済むと、三騎士は死骸群と血の海を背後に残して、その場から移動した。行動のひとつひとつが円滑で、無駄がなかった。  いちいち会話を交わさなくても、三騎士は意思の疎通が可能であるらしい。余程に気心の知れた仲間なのであろう。又、そうでなければ、人外魔境から生還することは難しい。潜行中の口論や内輪揉めは、全滅に直結する危険行為だった。  先頭を黒騎士が歩き、中堅を赤騎士が務め、殿(しんがり)役を蟹騎士が担っていた。三騎士は、先の戦闘が始まる前と、同じ隊列を組んで、迷路の奥へと進んで行った。  これも説明のつかない現象のひとつだが、同迷路に棲息するモンスターは、一体につき一本の『鍵』を必ず所持している。各階に存在する『宝部屋』の扉を開けるためには、まず鍵を入手しなければならない。財宝に通じる鍵を求めて、潜行者たちは地下魔宮に身を投じるのである。  過去に「鍵なし」で扉を開こうと試みた者たちがいたが、いずれの場合も失敗に終わっている。発光する扉に視覚を奪われたり、高圧電流を扉伝いに浴びせられたり、扉そのものが爆弾と化して、粉々に消し飛ばされたりと、ルールを破る者には、ことのほか、厳しい制裁が与えられるのだった。  まるで、迷路自体が「思考力」や「判断力」を有しているかのようであった。探検の掟とでも云うべきものが、定められるまでに、相当数の潜行者が、路上に命を落としているのだった。
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