第1話 MAZE

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[2]  三騎士は魔群の挟撃を受けていた。黒騎士は前方に出現した【怪夢羅】一体と、赤騎士は後方から出現した【怪露煮阿】六体と対峙していた。蟹騎士は左手の盾を黒騎士に投げ渡すと、赤騎士の援護に回った。三騎士の闘気と怪物群の殺気がぶつかり合って、激しい火花を散らしていた。この世のものとは思えぬ地獄の戦いが繰り広げられていた。  怪夢羅は四足歩行のモンスターであった。頭部から尻尾の先端まで、十メートル近い体長を有する大物であった。分厚い皮膚に加えて、背部が鉄板めいた甲羅に守られていた。緩慢な動作で、路面を這うようにして移動する。敏捷性は低いが、防御性は高い厄介な相手であった。耳まで裂けた口の中には、ナイフ状の歯がずらりと並んでいる。  黒騎士は愛剣を下段に固定すると、最前受け取った盾で前面をガードしながら、怪夢羅に接近していた。いきなり斬りつけないのは、奇襲を警戒しているからか。怪物はなんらかの奥の手を隠しているのだ。  酷い悪臭が漂っていた。怪露煮阿は二足歩行のモンスターであった。生ゴミの集合体のような外見をしており、物騒に光る目玉が赤騎士を睨んでいた。迷路内に棲息する異形のものたちの最大の好物は人肉であった。彼らにとって「食糧」に息があるのかないのかは、関心の外であった。半死半生の部隊が化物の群れに囲まれて、生きながらにして喰われることも珍しい話ではなかった。  怪露煮阿は「肉」よりも「血」を好む性質を持っており、潜行者たちに忌み嫌われていた。首筋に鋭牙を潜り込ませ、たちまちに大半の血液を吸い取ってしまうのだった。おぞましい吸血生物であり、一時期「怪露煮阿に血を吸われた人間は、その人間も怪露煮阿と化す」という不気味な噂が業界や町内に流れた。  生き血をすする六魔獣を目前に迎えても、赤騎士に動じる気配はなかった。むしろ、強敵の襲来を待ち望んでいたかのようにも見えた。戦鬼の気迫が燃え盛る輪炎となって、赤騎士の全身を縁取っていた。  赤騎士は腰の愛刀を抜き放つと、吸血集団に肉迫した。手練の刃が、怪露煮阿Aの首を宙に飛ばしていた。頭部を喪失した胴体から、血飛沫が噴き上がり、路面に落下した生首が、無数の血滴を撒きながら、独楽みたいに回転した。  怪露煮阿Aの首を刎ね落とした赤騎士は、返す刀で、怪露煮阿Bの顔面を断ち割っていた。血潮が飛び散り、苦悶の波動が空気を震わせた。
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