第1話 MAZE

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 顔の半分を削ぎ落とされた怪露煮阿Bが、血潮と脳漿を四方八方にばら撒きながら、赤騎士に襲いかかってきた。異様な執念、恐るべき生命力と云えた。しかし、怪物の爪は騎士の首を捉えることはできなかった。  赤騎士は怪露煮阿Bの攻撃を敏捷に回避すると、擦れ違いざまに愛刀を一閃させて、怪物の脇腹を深々と抉っていた。途端に血の滝が溢れ出し、各種内臓が路面にぶちまけられた。  怪露煮阿Bの絶命を背中で感じながら、赤騎士は次の攻撃に移っていた。赤騎士の愛刀が再度閃いて、怪露煮阿Cの首を宙に刎ね上げていた。怪物の生首が、虚空に血の橋を架けた。  赤騎士は血の噴水と化した怪露煮阿Cの胴体を「邪魔だ」と言わんばかりに蹴倒すと、目前に迫る怪露煮阿Dの懐に自ら飛び込んでいた。怪物の顎が騎士の右肩に乗っていた。怪物が騎士に抱きつくような形になっていた。吸血の牙が空気を噛む不快な音が響いていた。  気がつくと、怪物の背中に刀が生えていた。胸に潜り込んだ刀が、怪物の心臓を正確に貫いていた。優雅な曲線を誇る刀身に血の糸がからんでいた。怪物の口から、大量の血反吐が吐き出された。  蟹騎士は残りの二体、怪露煮阿Eと怪露煮阿Fと交戦していた。彼の武器は『戦鎚』と呼ばれるものであった。強力な粉砕性を秘めており、敵の頭を「ぶっ壊す」のに適している。相当な重量があるはずだが、蟹騎士は軽々と使いこなしていた。  最初に襲ってきた怪露煮阿Eの両膝を叩き潰すと、今度は背面に忍び寄っていた怪露煮阿Fに強烈な打撃を見舞っていた。振り返りざまに放たれた戦鎚が、怪物の腹部を直撃していた。騎士に比べれば、軽量とさえ云える怪物の体が、後方へ吹っ飛んでいた。  蟹騎士は怪露煮阿Fに体勢を立て直す余裕を与えなかった。騎士は壁際でもがいている怪物に魔風のごとく馳せつけると、その脳天に渾身の戦鎚を振り下ろした。次の瞬間、腐った南瓜が砕けるような音を立てて、怪物の頭が致命的に破砕されていた。原形をとどめない頭部から、大小の血飛沫がぴゅーぴゅーと迸っていた。  行動の自由を奪われた怪露煮阿Eの背後に、血刀を下げた赤騎士が立っていた。騎士は愛刀を一閃させて、怪物の生命を終わらせた。刎ね落とされた怪露煮阿Eの首が、床に転がり、血の海を作った。怪露煮阿の群れは壊滅した。酷薄非情、どちらが化物かわからないような赤騎士と蟹騎士の戦いぶりであった。
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