第1話 MAZE

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 怪露煮阿六体と怪夢羅一体、計七体の魔群を全滅させた三騎士は、迷路歩行を再開した。蟹騎士の腰に吊るされた皮袋の中には、七本の鍵が新たにおさめられていた。金銀財宝に通じる魅惑の鍵であった。この鍵を求めてゼゼに訪れる者は数知れず、ある者は願望を果たし、ある者は果たす前に命を散らした。正確な統計があるわけではないが、前者よりも後者の方が数が多いのは明らかであった。  何百何千…いや、万単位の人命を怪物迷路は貪婪に飲み込んでいるのだった。神秘の材質で構成された壁面は、無念の叫びや恐怖の絶叫を犠牲者の数の分だけ確実に聞いており、不思議な光沢を帯びた路面は、犠牲者の体から噴き出す血潮をたっぷり吸っている。この迷路はまさに「人喰いの迷路」であった。  かの地方を治める領主は迷路の開放を公的に認めており、希望さえすれば、誰でも自由に迷路に潜ることができるのだった。但し、一日の潜行人数は定められており、領主自らが発行している『勲章』の保持者以外は、順番待ちを強いられるのだった。  勲章を欲しがる者は大勢いるが、認定条件は異常に厳しく、滅多なことでは発行されなかった。実力と財力の両方を要求されるからである。殊に財力である。資格試験に合格しても、莫大な上納金を払えなければ、勲章を手に入れることはできない仕組なのだ。  勲章所持者の内、最強クラスの実力を具える上位四名は〔四天王〕として、周囲の憧憬と羨望を集めていた。  路内でどのような目に遭っても、当局は一切関知しない。という意味の文言が、初心者向けの案内書にはっきりと記されている。罠に潰されようが、化物に食われようが、個々の責任と覚悟に任せるということだった。又、この迷路は人智を超えた奇現象の巣窟であり、管理をしようにも、管理できないのも確かであった。謎の解明に取り組もうとするグループも何組かはいるものの、全体を見渡せば、ごく少数であった。  潜行者の大半は「宝探し」が第一の目的であった。彼らにとって、最大の興味は「謎解き」よりも「結果」であった。燃え滾る欲望の炎が、彼らを動かす原動力であった。  ゼゼの町では、路内に出没する怪物の名称や特徴や弱点を詳しく紹介した攻略本や指南書の類いが山積みで売られていた。とは云え、それらの書物が全ての種族を網羅しているわけではない。未知の魔群に遭遇して、壊滅に近い損害を被った例も少なくなかった。
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