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「すっごい、カッコいい…」
思わず呟いてしまうほどだった。イベントの野外ステージで歌う彼は、紫の髪に黒い服。自らもヴォーカルをやっているしおんには、彼が決して上手くないことはわかっていた。しかし、そんなことを抜きにして、しおんの目には格好良く映った。
あの人の名前は? このバンドの名前は? どこで見られる?
突如として湧き上がった疑問が、頭の中を駆け巡る。そして、やっと連れていた女の子を思い出す。確か彼女はジーラスとかいうライブハウスによく行っていて、こういったマイナーなアマチュアの、いわゆるヴィジュアル系バンドに詳しいはずだった。
「あの人、何て言うん?」
「え? ヴォーカル?」
「そうっ、ヴォーカルの人」
「キュセさん」
「このバンドは?」
「オピウム」
彼女は面倒くさそうに答える。
「どこで出とんの?」
「ジーラス」
ここまで出かけてくるのを面倒がっていたクセに急に興味を示し始めたしおんを、多分にバカにした口ぶりだ。
「次、いつ?」
「見とりいよ。そのうち言うから」
どうやらオピウムのドラムのファンらしい彼女は、一応彼氏であるしおんから話しかけられることが邪魔なようだった。そして、ショウさん見えなーい、と呟いて地団駄を踏む。しかし、しおんには、他の3人のメンバーは見えていなかった。
「カッコいい…キュセさん」
彼がこちらに視線を投げても、しおんを見たのではないことくらいはわかっていた。
だがしかし、その瞬間に、この女の子とは別れる決意をしていた。
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