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美樹という人格を初めて認識したのは、二年の夏、ある雨の夜だった。
部活が終え大学からの帰宅途中、ゲリラ豪雨に襲われて家路を急いでいたとき、車の傍らに這いつくばっている瀬名川美貴が目に入ってきた。
こんな所で何をしてるのかと声をかけたとき、
「子猫がいるの。助けないと!
ここ、水に浸かっちゃうでしょ!!」
普段の美貴にしては語気が強かった。
アンダーパスに放置された車の下を覗いてみると、子猫が入った段ボールが置かれていた。
一体なぜ、車の下に。
雨に濡れないように子どもが車の下に入れたのだろうか?
確かに美貴の言う通り、ここは冠水しそうでまずい。
タイヤの空気圧が抜けているせいか、車高が低い。
「厚、お願い!」
美貴は俺の目をまっすぐ見つめてそう言った。
ちょっとした驚きで、瞬間思考が停止したが、すぐに我に返った。
確かに、俺ならギリギリ潜り込めそうだ。
腹這いになり、匍匐前進の要領で進み段ボールを掴んだら美貴に合図をし、足首を持って引っ張り出してもらった。
全身、ぐちゃぐちゃの泥だらけになったが、子猫は無事に救出できた。
美貴が俺に最高の笑顔で「ありがとう」と礼を言ったとき、俺はなぜか
「お前は誰なんだ?」
という言葉を発していた。
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