瀬名川美貴の事情

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瀬名川美貴の事情

 何か怒ってるのかな?  いつもと雰囲気がちょっと違うんだけど。  真壁厚の隣で少し不安な美貴。  花粉症のせいだけではない気がする。  鰆岩まであと半分くらいだろうか。  ここから登山道は傾斜が険しくなってくる。  厚の顔はもともと童顔で愛くるしいのだが、性格はにこやかで明るい感じではないから、いつも通りといえばいつも通りなのかも。  いや、やっぱり何か違う。    怒らせるようなことしたのかな。  厚が背負うリュックで猫のキーホルダーが歩みに合わせて揺れていた。  美貴のショルダーバッグにも色違いの同じ猫のキーホルダーがついている。  名前は雨太郎。  土砂降りの雨の日に拾ってきた子猫につけた名前だ。  今は厚のお母さんの家で元気に暮らしている。  あの日を境に厚と一緒に居る時間が増えた。  美樹と厚は付き合っている。  美樹は幼稚園の時に死別した僕の双子の姉。    僕の目の前でトラックに跳ねられた…  らしい。  僕は正直、全然覚えていない。    あまりの恐怖や衝撃で記憶が閉ざされることはよくあることみたいなんだけど。  だから、古いアルバムでみた姿しか思い出せない。  自分とそっくり。  でも、僕よりも少し勝ち気というか強い顔。  きっと、しっかり者の姉だったんだろうな。とても聡明な顔をしている。  生きていたらきっと綺麗な女性になっていたはず。  そんなことばかり子どもの頃から考えていたせいで、僕の中に姉の人格ができてしまった。
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