八坂千洋という男

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八坂千洋という男

 鰆岩に着いた。  いつ見ても立派な岩だ。  なんつーか、均整がとれていて美しい。  山の中腹の開けた高原に、もう一つ別の小さな山があるみたいだ。  なんで、鰆岩なんて呼ばれているのか理由は知らない。  正式な名前なんてあるわけでもないし、鮭岩だろうが鰻岩だろうが鯨岩だろうがなんでもよかったんだろう。  ただ、この岩があればいい。  ちょっとした信仰に近いものでもあるのかもしれない。  そう思わせるほど、立派で美しい岩だ。  松山大学のラグビー部合宿の最終日の鰆岩ハイクでは、部員全員でこの岩を取り囲み校歌を唄うのが〆の恒例行事となっている。  俺の時代にも既に行われていたから、もう伝統行事と言っても良いだろう。  こいつら五人も四年間、ここで絆を深めたはずだ。  さすがに今日は校歌を唄うってことはないみたいだが、隆は唄いたそうにしてるけどな。  元太と雄介は早々と荷物を下ろし、地べたに座り込んでいる。  雄介はかなり息があがってるし、二人とも3月なのに汗びっしょりだ。  厚と美貴はまだまだ余力がありそうだ。半年前に見たはずの、鰆岩をなぜか懐かしいそうに見上げている。  いや、懐かしいんじゃないな。  厚の顔にも美貴の顔にも何らかの決意というか意志を感じる。  
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