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「千洋さん、俺たちに一杯食わせようとしてるんじゃない? まんまんと騙されて卒業旅行でも鰆岩ハイクをする奇特な俺たちのことを次の夏合宿で笑い話にする気なんだよ」
浮遊していた思考を戻してくれたのは瀬名川美貴の言葉だった。
瀬名川美貴、名は体を表すかのごとく、188cmの長身を誇り、すらりと長く伸びた手脚と美しい顔面はまさに雑誌のモデルのようである。
屈強なラグビー部員の中に居ると一瞬、華奢な印象を与えるが、洗練されたアスリート体型である。
中学生までサッカー強豪校でゴールキーパーをやっていたという経歴を持っており、
キャッチングとキックの技術はチームナンバーワンとの呼び声も高い。
ポジションはフルバック。
チームの守護神的な役割を果たしていて、ペナルティーキックやコンバージョンキックなども彼が担当している。
非公式のファンクラブがあり、トライの後に蹴るコンバージョンキックの時には観客の視線を一身に浴び、女子から黄色い声援が飛び交っていた。
美貴のキックに入るまでの動きは美しく洗練されていて、少し前にワールドカップ日本代表選手のルーティーンが話題にもなったが、美樹の所作はそれ以上に見ている人を釘付けにする魅力があった。
試合では類い稀なる危機察知能力をいかんなく発揮する美貴、その所以たる性格はとても慎重というか、小心者というかわりとネガティブである。
ファンクラブの存在も本人は迷惑がっているのだが、チームメイトからは妬まれたりからかわれたりなんかして可哀想だ。
その見た目からもっと華やかに生きられそうなものだが、そうじゃないところが不器用で愛すべき存在なのである。
「千洋さんってそんな意地悪な人じゃないよ。
でも、確かに最後の表情は何か含みがあったようにも見えたかも。
雄介はどう思う?」
隆の言葉でみんなの視線が俺に集まった。
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