再び五十川雄介の視点

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 太陽の日差しが照りつけていた鰆岩周辺とは異なり、山々に囲まれた露天風呂の周りの空気は3月のそれである。    澄んだ空気に肌寒さを感じたが、湯船がそれを帳消しにしてくれる。  少し白濁している。  そして、ほんのり硫黄っぽい香りもする。  肌がすべすべになりそうだ。    俺の隣には元太、厚の隣は美貴、そして隆は一人で、それぞれ三角形の頂点の位置に陣どって浸かっている。  なんていうか、空気が重い。  沈黙が続いている。  千洋さんの言葉のせいだろう。  みんながそれぞれに何か言いたそうではあるが、逆に何も言いたくなさそうでもある。  花粉症の厚の鼻をすする音。  目を擦るときにわずかに揺れる水面。  沈黙を破ったのは隆だった。 「 みんなに隠していたことがある。   最後だから、そして、これからもみんなと仲間でいるために、知っておいてもらいたい事がある。」  そういった後、隆は自分がゲイであるとカミングアウトした。  そして、さらに元太のことが好きだったが、元太には好きな人がいると気がついたのであきらめたと話した。  衝撃のカミングアウトだ。  隆がゲイであることもそうだが、元太の事が好きだったこと、そしてその元太には好きな人がいるということ。  元太に好きな人!?  隆がゲイであることも驚いたが、そちらが気になってしょうがない。  そうだ、元太は?   横にいる元太の様子を伺うと、視線を惑わせている。やはり動揺しているようだが、意を決したように何かを言おうとしたき、  「俺は美貴と付き合っている!」  厚からの強い気持ちがこもった言葉だった。  「二年生の夏から、俺は美貴、正確には美貴の別人格の死別した双子の姉の美樹と付き合っている。」  と付け加えた。
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