五十川雄介の視点

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 五十川雄介(いそかわゆうすけ)、そう、俺の名前は五十川雄介。  ポジションは元太と同じくプロップ。フォワードの最前列だ。  子どもの頃から太っており、そのことをコンプレックスに思っていた。  足も遅くサッカーや野球などの球技も苦手で、運動よりも鉄道や地図や星が好きな内気な少年だった。  そんな俺がラグビー部に所属していた理由は、先にも少し触れたが高校一年のとき同じクラスになった元太の影響である。  太っているといっても、元太や千洋さんは固太りで、外見も内面もエネルギーに満ちている感じがするのだが、俺はいわゆるポッチャリデブというか柔らかデブである。  同じ太っちょでも、正のオーラを纏う元太の周りには自然とクラスメイトが集まり、楽しそうだった。  そんな元太を妬む気持ちと憧れの気持ちの両面で眺めていた負のオーラを纏う俺に、一緒にラグビー部に入らないかと誘ってくれたのが元太だった。    運動音痴だった俺はもちろん、その誘いを断ったわけなのだが、  「お前のその体型、ラグビーでは最高のギフトなんだよ。だから俺と一緒にスクラム組もうぜ」  自分のコンプレックスを最高のギフトと言ってくれた元太。  その言葉に頭が痺れてクラクラしたが、それでも躊躇う俺の腕を掴み、ラグビーグラウンドに引っ張っていった。  そんなきっかけで始めたラグビーが俺の人生に輝きをくれた。  ちなみに、俺意外の四人は一年生のときからレギュラーで試合でも大いに活躍していたが、俺は四年生になってやっと、なんとかかろうじてレギュラーを掴みとった。  天才肌の四人とは違い完全に雑草魂な俺は、レギュラージャージを貰えたときに震えながら大泣きしてしまった。    どんくさくてみんなについていけなくても、最後まで泣きながら走り続けたランニング。  でかいくせに力が弱いとからかわれながらも、居残りで続けた補強の筋トレ。  二年の冬に監督から選手をやめて主務にならないかと言われて絶望したときにだって、諦めずに選手でいさせて欲しいと懇願し、みっともないとわかっていても、監督の前で土下座をして頼み込んだ夜。   その監督からレギュラージャージを渡されたときに、すべての苦労が走馬灯のように駆け巡り、歓喜の涙のを堪えることができなかった。  部員の中には、あまりに大袈裟に泣いている姿に失笑や冷笑している奴らも当然いただろう。  でも、ここにいる四人は全員、俺のために涙を流してくれた。  あのクールな厚でさえもだ。  だから、この卒業旅行は俺にとっては最高の仲間と過ごす感謝の時間でもある。    特に元太と一緒にいられることが嬉しい。  本音は二人きりでどこか行きたいって思ったりもする気持ちがないわけではないのだが、それはそれで照れ臭かったり意識しすぎたりしてしまうので、このメンバーで自然にいられるのがいい。  
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