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その時、ピンポーンと、呼び鈴が鳴らされた。
その場で立ち止まった原は、「先にそっち出てきても大丈夫ですか?」と俺に訊く。
頷くと、軽く礼だけして事務所の入口へと向かって行った。
応対の後、傍らに人を連れて戻ってきた。
背が高いが痩せ型で、ピシッとしたスーツを着こなしている。銀縁眼鏡からは神経質な印象も受けるが、それを気にさせない堂々とした立ち振る舞いが、ふとした瞬間に強く目に焼き付く。
──流石、と言ったところか。
「災難でしたね、國村さん」
「…本当ですよ、河合さん」
俺は上体を起こして、原が勧めた椅子に座った河合と向かい合う。
お互い敬語を遣うのは、あまり相手に干渉しないようにしていたせいかもしれない。それはこういう事態になっても変わらないのだと知った途端、気分が落ち込むのはどうしてだろうか。
「原がここまで運んでくれたらしいですね」
「すみません…今起きたところなので…」
そう告げると、河合は顎に手を当てた。
「そうですか。それなら…記憶を失っている部分、一部始終をお話しした方がよろしいですか?」
「…はい」
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