5.春川

1/4
前へ
/18ページ
次へ

5.春川

兄の瑞生は3年前、弟の颯馬は半年ほど前に亡くなっている。 どちらにも倉田が関わっていたらしいが、瑞生の方は遺体を任せられたのに対して、颯馬の方は何も連絡が無かった。 それゆえ警察に発見されたのも当然の事だが、結局は自殺として処理されたはずだ。 当時ニュースでも少し取り上げられていた。自殺に至った原因がわからず『謎の死』と言われ、あまり言及されることも無く終わっていた気がする。 瑞生に弟がいること、瑞生は例のリストを見られたため手をかけたこと、それらは知っているが、颯馬についてはほとんど何も知らなかった。 唯一わかるのは、恋人関係であったことぐらいか…。 まして、『九條』はともかく、『倉田』が殺しをしていないことに驚いた。 そこは『九條』がとどめたのか、もしくは『倉田』が自ら「殺さない」とそう判断したのか…解らない。 「瑞生は貴方が処理しました。ですが、颯馬の方は世間に露見してしまった。倉田に掃除屋を頼る選択肢は無かったのでしょうか?」 河合は眼鏡を人差し指で押し上げ、俺を見た。 その質問に答えられるほど、俺は情報を持っていない…。 「逆に考えると、『頼る必要が無かった』ともとれますね」 「『頼る必要が無かった』って…?」 問い直すと、彼は大きくゆっくりと瞬きをした。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加