あけびちゃん

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 カバンから携帯を取り出すと、電話帳からエリの番号を呼び出した。通話ボタンを押すと聞こえてきたのは、無機質なアナウンスの声ではなく、呼び出し音だった。  トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル、 「もしもし」  数度のコール音のあとようやくつながった。  わたしがさやかのほうを見ると、さやかも気づいたらしくほっとしていた。 「あ、もしもし、エリ? 今日学校休んだみたいだけどどうしたの?」  冷静を装って話しかけてみるけど、内心では心臓が飛び出しそうなくらい緊張していた。もしかしたらこの電話の向こうにいるのは、はたしてエリなんだろうか。  エリからの返答はない。代わりにざわざわとノイズ音が時折聞こえてくる。ちらっと盗み見たさやかの顔にも不安な色が浮かんでいた。 「もしもし? エリどうしたの?」  もう一度たずねる。すると、 『必ずみつけるから』  ブツッ、  それだけを残して電話は切れた。スピーカーから聞こえるのはツーツーという電子音だけだった。 「ねぇ、エリなんだって? アキ? アキってば!」  もうさやかの声も耳に届かない。  彼女は言った。 『必ずみつけるから』  きっともうエリは見つかってしまったのだろう。  次はだれの番?  さやか? それとも──。  バラバラと窓を叩きつける雨音がわたしの鼓動のように聞こえた。  その夜は特別暑苦しいわけでもないのに、なかなか眠れなかった。理由はわかってる。  家に帰ってきてから知ったことだけど、エリは昨日からずっと家に帰っていないということだった。学校からの帰り道、駅前のハンバーガーショップによってから別れたのが七時過ぎだったから、すでに一日家に帰っていないことになる。  やっぱりエリは……。  すっくとベッドから起き上がるとぎしりと音を立てた。  朝から降り続いていた雨はまだ降っていた。このようすだと明日も雨だろう。  真っ暗に閉じた部屋の中はまるでわたしの心の中みたいだ。  けっしてやってはいけない遊び。わたしたちはその禁忌に触れた。その代償がこれか。 『必ずみつけるから』  あの声が耳から離れない。  もしみつかったらどうなるのだろう。あの人たちみたいにわたしも死んでしまうのだろうか。  不安に押しつぶされそうになる。  さやかはどうしてるんだろう。さやかも部屋の中で怯えてるのだろうか。  朝が遠い。  一日が早く過ぎてほしかった。  
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