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どうしてこんなことになったのだろう。
わたしは屋上のフェンスの向こう側でそんなことを思っていた。
真下から吹き上げてくる風がびゅうびゅうと頬や髪をかすめ、風に煽られたスカートがふわりと揺れた。
夕焼けが空を真っ赤に染めていた。ここもじきに暗闇へと包まれるだろう。
ぎぃ、と防火扉の軋む音。誰もいないのに。それ自体が生きているようにゆらゆらと動いていた。
ああ、わかってる。
彼女が──そこにいる。
「遅かったね」
親しげな友人に話しかけるように言う。もちろん、相手からの返答なんてない。
彼女が待っているのは私の言葉なんかじゃない。
ハヤクオイデヨ。
手招きするように彼女がニタリと笑った。
せっかちだなぁ。まぁいい。そう思うのもあとわずかだ。
足元に広がるのは紺と紅の混じった不思議な風景。
あと一歩踏み出せばそこにもうひとつの朱が交じる。
踏み出せ。
耳元で囁く悪魔の吐息。けれど今のわたしにとってそれは救いの手のように思えた。
そうだね。もう終わりにしよう。
みんないなくなった。もうここにはわたしの居場所なんてない。
だからここにいる意味もない。
「じゃあね」
それをきっかけにわたしは一歩を踏み出す。
体全体に浮遊感を感じながら落ちていく。
フェンスの淵で彼女が笑っていた。
どうしてこんなことになったのだろう。
そんなことを思いながらわたしは、グチャッという音を残して意識を閉じた。
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