あけびちゃん

2/25
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
 どうしてこんなことになったのだろう。  わたしは屋上のフェンスの向こう側でそんなことを思っていた。  真下から吹き上げてくる風がびゅうびゅうと頬や髪をかすめ、風に煽られたスカートがふわりと揺れた。  夕焼けが空を真っ赤に染めていた。ここもじきに暗闇へと包まれるだろう。  ぎぃ、と防火扉の軋む音。誰もいないのに。それ自体が生きているようにゆらゆらと動いていた。  ああ、わかってる。  彼女が──そこにいる。 「遅かったね」  親しげな友人に話しかけるように言う。もちろん、相手からの返答なんてない。  彼女が待っているのは私の言葉なんかじゃない。  ハヤクオイデヨ。  手招きするように彼女がニタリと笑った。  せっかちだなぁ。まぁいい。そう思うのもあとわずかだ。  足元に広がるのは紺と紅の混じった不思議な風景。  あと一歩踏み出せばそこにもうひとつの朱が交じる。  踏み出せ。  耳元で囁く悪魔の吐息。けれど今のわたしにとってそれは救いの手のように思えた。  そうだね。もう終わりにしよう。  みんないなくなった。もうここにはわたしの居場所なんてない。  だからここにいる意味もない。 「じゃあね」  それをきっかけにわたしは一歩を踏み出す。  体全体に浮遊感を感じながら落ちていく。  フェンスの淵で彼女が笑っていた。  どうしてこんなことになったのだろう。  そんなことを思いながらわたしは、グチャッという音を残して意識を閉じた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!