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五日目
蒸し暑い金曜日だ。ジャムにでもなってしまいそうな暑さだ。
僕は「汽水域」の窓辺の席に腰かけ、表で囀るムクドリたちの声を聞いていた。鳥たちは黒雲の如く群れをなし、まるで世界の終わりでも告げるかのように絶えず囀っていた。
いったいなぜ、ムクドリたちはああもかまびすしく囀らなくてはならないのだろう? そして僕はいったいここで何をやっているんだ? ちょうどその時、店の柱時計が二時を告げた。その硬質で妥協の余地がない宣告は、僕の耳には裁判官の木槌の音のようにも、夜半の不吉な訪問者のノックのようにも響いた。
十四時間。僕が二十歳を迎えてから、すでにそれだけの時間が経過した。二十年。十歳の双子が二人並んだだけの時間だ。果たして僕にそれだけの値打ちがあるのだろうか? わからない。自分の家の風呂の栓のサイズだってわからない。
三時に女がやってきた。女がやってきた時、店にはラヴェルの「ボレロ」が、まるで何かの啓示の如く流れていた。
「ねぇ、いつもこうやって一人でカフェで過ごしているの?」
「まあね」
「そうしてコーヒーを、ミルクも入れずに飲むのね」
「時々は」
「寂しくない?」
僕──私はため息をついた。「これは模倣しすぎたな」
女はそれには答えず、店の水槽を眺めていた。水槽にはネオンテトラとベタとエンゼルフィッシュが、それぞれの魚的沈黙を保っていた。
ややあって、女がまた口を開いた。「ねぇ。私たち、前にもこうして会ったような気がしない?」
女の問いかけは答えを与えられることもなく、しばらく宙をたゆたっていた。ちょうどその時、いちごミルクとブレンドコーヒーが顕れた。
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