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「ごめんなさいね。今回もちょっと、通らなかったわ」
ひときわ低い声は目の前の強面の男から放たれたものなのに、頭の上から岩として落ちてきたような錯覚に陥った。
特別な期待をしていたわけではなかったが、現実というのは真っすぐ正面から受け止めるには少々重力を伴う。
「……いえ、ありがとう」
「頑張ったんだけど」
「頑張ってくれたことには、ありがとう。でもわたしがだめなんだから仕方ない」
目の前の彼の尽力には本当に感謝しているのに、自分という人間はどうしてこう言葉に棘を差し込んでしまうのか。
案の定、彼の眉根は寄せられ背中も丸くなる。
「そんな言いかたしないでちょうだい。また、何かできたら連絡してよ。いつでも喜んで返事するから」
それでも一瞬気を取り直し笑顔を見せてくれる彼の頬に、疲れがこびりついていた。その疲れはわたしが張り付けただけのものではないだろうが、彼の気遣いはありがたいと思う。
「ありがとう、銀ちゃん……」
今度は心からつぶやき落とした。わたしは本音を口にするとき、どうも声がこもりがちになってしまう。
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