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不死身と作者
「くそっ、また狙撃かっ!」
俺は執拗な追跡からの逃避行を続けていた。
それもこれもどうやら得体の知れない何者かを怒らせてしまったかららしいのだが。
ほほをかすめた銃弾がひいた線から血がにじみ出る。
俺もよくよく幸運なやつだ。ビルの上から除き見るスコープの一瞬の光の反射に気がつくことができるなんて。
その瞬間に俺は身をよじって銃弾を避け、物陰に隠れた。
しかしこの位置からでは狙撃手に反撃することもできない。
おまけにやつは初弾を避けられたことを知るや、即座に制圧射撃に切り替えてきた。
ランダムな間隔で撃ち込まれる銃弾に、飛び出すタイミングを計ることもできない。
何よりまずいのは、じきに強襲部隊が来て取り囲まれるということだ。
でなければわざわざ俺をここに釘付けにする意味がない。
しかし平日の真昼間から人通りの多い街中でこんな行動に出られるなんてもみ消しも大変だろうに、一体相手はどんな力を持っているのだろう?
その時俺の腕のコムリンクが着信の合図にかすかに振動した。
俺はすかさず受信ボタンを押し、コムリンクを通話モードにする。
「シイナ、どうした?」
俺の相棒のシイナは完全循環型の核シェルターに引きこもった世界最強のハッカーだ。おおかた俺の今の状態をどこかの街頭カメラから覗き見しているんだろう。
「すぐ後ろの段ボール箱をどかせば、下水のマンホールがある」
「くそ、また下水か」
「頑張って、不死身の男」
シイナが俺を応援してくれるなんて珍しい。きっと明日は核ミサイルが降るな。
俺はマンホールのふたを開けると、下水道へ滑り込んだ。
「ああっ!また逃げ延びやがった!やっぱこいつの超幸運と超反射神経の設定はチートすぎたな……」
せっかく三十四話で殺した伝説の狙撃手「ブルズアイ」をサイボーグ化して蘇らせたのに!
この「不死身の男」ガイナスを殺さないと、次のエピソードが始められないよ。
どうする?新キャラを作るか?
でもさすがに最近はキャラの強さ設定がインフレしすぎているしなぁ……。
下水道に逃げたし、ラットマンズ・クランを使うか?
でもあいつら、六十二話で主要メンバー全員病院送りにしちゃったしなぁ。
もう新シリーズのプロローグで五話も使っちゃったんだ、今更後には引けない。
だいたいお前が死なないと、プロットが成立しないんだよ!
まったくこのキャラはいつもいつも勝手に動き回っていうことを聞きやしない。
くそー、絶対殺してやるぞ、ガイナス!!
この戦いは負けられない!
薄暗い下水道をライターの小さな炎を頼りに進む。
全く、この臭いはたまらないぜ……。絶対三日は取れないな……。
俺がその人物について知ったのは、先週の襲撃の時だ。
かろうじて息のあった一人の死に際のつぶやきを聞いたのだ。
「ひでぇよ……俺たちに……不死身の男を……殺させてくれるって……言ったじゃないか……サクシャさんよぅ」
サクシャとは一体何者なのか、俺はそいつを必ず見つけ出してぶん殴ってやると誓った。
この戦いは、負けられない。
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