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うるさい、うるさい。
「おいまたかよ!」
俺は苛立って、隣の部屋の壁をドンドンと叩いた。途端、向こうにも多少は響いたのか一瞬だけ大人しくなる。なんせ壁の薄いボロアパートだ。
「毎日毎日毎日!ヨウチューバーだかなんだか知らねーけどうっせーんだよ!動画録るなら人の迷惑にならないところでやれや!」
ここ最近、腹が立つことばかりが続いている。
転勤になったと思ったら、妻も息子も当然のようについてこなかった。お前が一人で単身赴任するのがアタリマエといった態度である。俺が唖然とするのも当然だろう。確かにあまり子育ては手伝って来なかったが、一体誰のために毎日汗水垂らして働いてきたと思っているのか。年下のムカつく上司にも、取引先にも情けなくペコペコと頭を下げながら。
その上、このアパートのボロさと言ったら。安月給だから仕方ないとはいえ、風呂場は雨漏りがするし壁は薄い。左隣の部屋のカップルはアンアンギシギシと気持ち悪い声を垂れ流すし、右隣の部屋には傍迷惑なヨウチューバーが住んでいる。後者の何がムカつくって、毎日のように夕方から夜にかけて叫ぶのだ。それも生半可ではない、ガチの恐怖の絶叫である。
聞けば、ホラーゲームの実況動画を撮影して、それを放送することで広告収入を得て生活しているという。仕事としてやっているのだから多少は我慢してほしい、みたいなことをいけしゃあしゃあと言われて白目を剥いた。多少、程度ではない声なのだ。最初は何が襲ってきたのかとひっくり返ったほどに。時間帯は真夜中を控えるようにはなったようだが、あんなもの昼間に聞かされるのだって迷惑極まりないのである。いくら、他にこのボロアパートに住んでいるのが殆ど部屋にいないカップルと自分、耳の遠い年輩の管理人だけだとしてもだ。
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