俺の戦いはまだ始まったばかりだ

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「あいつ、ホモなんだって」  教室に入った途端、聞こえてきた声に斉藤有楽(さいとううらく)は息をのんだ。  辺りを見回すことも出来ずに凍りつく。鞄を手にしていた指が震え始め、心臓まで早鐘を打ち出した。 どういうことだ。なんで、バレた? 初恋相手が男だったことから、自分が男が好きだと気づいて、はや数年。有楽はひたすらそれを隠し続けてきた。高校を卒業するまであと一年半。隠し通せると思っていたのに。なぜだ。 心当たりは全くない。 「有楽、おはよう」 後ろから肩を叩かれた。同じクラスの友人、槙島だ。もちろん槙島にも、真実は明かしていない。うかがうように上目遣いで見つめるが、槙島はいつもと何も変わらなかった。 (さっきの、俺のことじゃ、なかった、のか?) 異物を見るような目でないことに安堵しながら、わざとのんびりした口調で聞いた。 「あ、おはよう。なんか、騒がしいけど、どうしたぁ?」 「いや、それがさー……。うちのクラスの新堂のことなんだけど。ほらお前の一個あけて隣の席のやつ」 「あー……、いた、ような気はするけど」 新堂。確か名前は、一世(いっせい)。 顔を思い出そうとしても、ぼんやりとしか浮かばない。銀縁眼鏡をかけていたような気はするが。教室の隅で、いつも一人でいたことくらいしか覚えていない。 「その新堂がさ、うちの担任の原ちゃんと手ぇつないで歩いてたってことで、いま、職員室に呼び出されてんの」 「は? 原ちゃんとっ?」 思わず声が大きくなってしまった。あわてて口をふさぐ。原ちゃんこと、数学教師、原田真琴(はらだまこと)はもちろん男だ。バスケットボール部の顧問をやっている、明るくて爽やかな教師だった。  実は密かに有楽の想い人でもあった。
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