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それは突然に
午前6時、私はアラームもなっていないのにも関わらず、目を覚ました。
下を見ると、すやすや眠っている葵の姿があった。どうやら起きたのは私だけの様だ。
いつもより1時間早い時間、そして両親が起床する時間だ。その両親が今、柄に似合わずに大声で叫んでいた。
昨日の話し声より遥かに聞き取りやすい奇声の二重奏に耳を傾けると、言っていることが理解できてきた。
最初は悲鳴や呻き声のようなものだったが、徐々にそれは人の言葉へと聞き取れていく。
ーわ、私?なんで、どう、して?やだ!
ー来るな、こっち来んな!
ー嫌だ嫌だ嫌だ、助けて
普段威厳のある両親の情けない悲鳴に、私はただならぬことが起こっていると子供心で察知した。
強盗か、何かだろうか。
それとも、ただ単純にゴキブリでも出ただけだろうか。
どうする?様子を見に行くべきだろうか。
行って、なにもなかったならそれでいい。
しかし、不審人物の襲撃だったとしたら、私は2人を守るどころか真っ先に第一被害者になりうるだろう。
嫌な想像が脳裏に浮かんで、鼓動が速まっていく。手のひらは汗でじっとりと濡れていた。
両親の悲鳴はまだ続いている。このままじゃいけない。
私は覚悟を決めて部屋のドアを開けた。
廊下の蛍光灯が、私の半ボケの眼球に容赦なく入り込んでくる。
それでも無理矢理目をこじ開けて、2人の部屋へも恐る恐る近づいていく。
途中、傘立てから一本の傘を武器用にと調達してから。
ーなにもありませんように
私は心の中で祈りながら、勢いよく夫婦部屋のドアを蹴り開いた。
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