プロローグ

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プロローグ

 普段ならにぎやかな街の通り道も夜になると姿を変える。  今は市場も閉まり、火がともるのはバーや酒場などの夜のお店だけだ。  少し奥の路地裏に入れば人の姿もあまりない。  そんな静かな路地裏でローブに身を包んだ魔術師のような男が宿でも探しているのだろうか辺りを見渡しながら歩いている。  奥に進めばさらに闇は深まる。  いつしか、にぎやかな表通りの声すらとどかない所まで来ていた。 「………!」  ふとその魔術師は何かに気付き走り出した。  それを合図に、魔術師を取り囲んでいた黒い影も一斉に動き出した。  複雑な道を右へ左へとやみくもに走る魔術師。  黒い謎の影を巻くつもりなのだろう。  だが、奥へ入れば入るほどその数は増していった。  残念なことに魔術師の男より、影の集団の方が街の地形に強かったようだ。  あっというまに魔術師は取り囲まれてしまった。 「我々のアジトを嗅ぎまわっていたのは貴様か。大人しくその手にしたものを返せ。」  影の集団の中から一つ頭ほど大きいリーダーのような人物が前に出た。  その言葉を聞くと魔術師はかさりとローブの奥に何かを隠した。  どうやら、この集団の目的はその魔術師がアジトから盗み出した何かのようだ。  ふと気が付けば最初にいた黒い服の集団だけでなくごろつき風のガタイのいい戦士も何人か集まってきている。  攻撃魔法などを使えば、多少はしのぎはできるだろうがさすがに数が多い。  一人では逃げ切ることは無理だろう。  絶体絶命のピンチ  ―――だが  ニヤリと、魔術師は笑った。  その様子に影の集団のリーダーは不穏な空気を感じた。 「……貴様。何か奥の手でも持っているのか。」  そんな言葉に応えるかのように魔術師は地面に手をつく。  ビリっと電気のようなものが走ると同時に地面に魔法陣が浮かび上がる。 「召喚魔法!?」  影の集団がざわついた。  魔法陣から煙が立ち込める。  これはまずいと影の集団の何人かは魔術師から離れた。  逃げ遅れたモノやこの状況を理解できてないごろつき何人かは逃げ遅れたようで煙の中に包まれていく。 「―――わが声に応えよ!仮の契約せし、ブルードラゴン!!」  魔術師がそう叫ぶと煙の中から青白い光の玉のようなものが現れた。  その光からうめき声のような音がし、眩さが増す。  ………ドラゴンが出てくるっ!  影の集団は身構えた。  そして、光がはじけ飛ぶその瞬間  ―――なぜか魔術師も吹き飛んだ。 「どちくしょぉぉぉぉぉ!!人が風呂に入っている間に呼び出しとはどういうつもりだ!クソ召喚主(マスター)!!!」  飛ばされた魔術師をよく見ると召喚時の衝撃ではなく物理的……グーパンチで殴られたような跡が顔にあり鼻血まで垂れ流している状態だ。  煙が薄くなっていくと肌色の何かが動いているのが見える。  ………どうやら、全裸の男のようだ。  ただ普通の人間と違うのはその頭に生えた二本の角と背中に生えた竜の翼、尻には青いうろこがびっしりとならぶ立派なしっぽがあること。  その全裸の男はいそいそと手に持っていた手ぬぐいを腰に巻き始めた。  まだ煙が少し残っているせいか、その男は周りの様子が見えていないようだ。 「……ったく。召喚前にはちゃんと連絡してほしいんだけどなぁ。まぁ、他に誰かがいる状態じゃなくてよかったけ…ど……」  ようやく煙がはけ、男は自分が路地裏で集団に囲まれていることに気付いた。  影の集団やごろつきたちは、じっと男の方を凝視している。 「……お、おまえら……いつから…い…た??」 「……え、えっと……その魔術師が飛んできた時よりも先に居りましたが。」  顔を赤くして召喚された男が尋ねると、影の集団のリーダーらしき男はこの状況に困惑しながらも応えた。   「ま、まさかと思うが、この布巻く前からいたってことか?」 「我々としても不本意ながら、煙があったとはいえ近くにいた者などは股間のものまで見えていたと思われ……」  今度はリーダーらしき男が言葉を言い終わる前に殴られ吹き飛んだ。  他のメンバーもおそるおそる先ほどまでリーダーがいただろう場所に視線をめぐらす。  そこには不機嫌そうにしっぽで地面を叩き鬼のような形相で立っているほぼ全裸の男の姿があった。 「ここで起きたこと、全部忘れるまで、 てめぇら全員ぶっ飛ばすっ!!」  その言葉と同時に男の周りに大量の水がどこからとも無く集まる。  やがてその水が渦を起こしその中心に巨大な青いドラゴンが出現した。 ドラゴンはその渦をさらに巨大化させ、逃げ惑うゴロツキや影の集団たちを飲み込んでいく。  そのドラゴンの暴走は止まることなく、渦はついに洪水にと変化を遂げ、挙句の果てには街の大半がのまれ、半壊するのもそんなに時間はかからなかった。
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