22. 天使の忠告

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さっきの真白の一言で、真白の気持ちが少しだけ見えた気がした。 「言ったらいい!何でもぶつけろよ!」 真白の目からジワッと涙が溢れてきた。 それでも、一人で泣かれるよりは何倍もいい。 「そんな簡単に傷付かないよっ!真白が言わずに苦しんでる方が辛いからっ!」 それでも真白は目から涙を溢れさせて、首を横に振る。 俺は絶対に目を離さなかった。 「言えよ!」 「酷いこと言っちゃうもんっ」 そう言って顔をクチャクチャにして泣き出す真白。 「いいよっ!言ったらいいっ!!」 それでも首を横に振る真白の両頬を両手で包み、グッと顔を近付けた。 「真白!!俺は真白にどんな酷いことを言われても、心の中で仕舞われるより話してくれた方がずっといい!真白が苦しんでるのに知れない方がずっと辛いから!」 そう訴えたけれど、真白は唇をキュッと噛んだ。 言わないと決めこんだように唇を閉めた真白。 ならば…… 「どうして真白と俺の赤ちゃんが流れて、萩山麗美の子供がうまれたんだ…?」 俺の言葉に、真白は目を見開いた。 俺は真白の気持ちを、自分達の気持ちを、言葉にした。 「どうして本当に愛し合った命が流れて、偽りや嘘や犯罪で作り上げられた命が誕生したのか―」 真白は両手で俺の口を塞いだ。 涙をいっぱい流しながら、閉めていた唇から、 「言わないで」 と俺を止める。 「どうして?自然に出てくる感情だろ?何も酷いことない」 真白の手が力なく俺から離れる。 さっきよりかは幾分か落ち着いた真白の息遣い。 「萩山麗美が出所した時、俺も真白も知りながら、その話に触れなかった」 それは、半年より前の出来事。 検察庁から萩山麗美の出所日を聞いた。 俺達はお互いに何かを感じながらも、それを話し合うことなく、ただお互いの肌に触れて、気持ちを沈めた。 言い表せない気持ちだった。 彼女が罪を償い終え、この同じ社会に戻ってきたんだ。 何でも話そうと約束していたけれど、ことこれに関しては、お互いに話せなかった。 何をどう話せばいいのかもわからなかったからかもしれない。 だから、お互いを求めて不安から逃げた。 あの時期から、話し合わずに避妊を止めたんだ。 「何でも話し合おうと約束したのに、お互いにその話を避けた。そうだろ?」 真白との再会は、萩山麗美の裁判が終わってから2年してからだった。 蒸し返すようになるのもイヤで、お互いに触れられなかった部分でもある。 触れなくても生きてこれた。 真白と一緒だと、事件のことを忘れることもあった。 だけど、出所の話を耳にして気持ちのバランスを崩し、 今回のようなことがあれば、また苦しむことになる。 「事件のこと…忘れられるわけないのに…。真白と一緒だと、幸せで…忘れそうになる。なのに…こうやってまた思い出す…」 「恭ちゃ…」 「それでも、真白と一緒に居たいんだ。だから…話してよ…」 俺の言葉に、真白は俺の胸に顔を埋めた。 「……嬉しかったの。すっごくすっごく嬉しかった…。検査薬が薄く反応して…病院で確認してから、恭ちゃんに一番に知らせようって」 真白は胸に顔を埋めたまま話し出した。 真白を抱き締める。 「病院で胎嚢を見せて貰って…心拍が確認できないからって、また日を改めて行ったの…。そしたら次も心拍が確認できなくて……」 「うん」 「…なんで?なんでって?いくら考えてもわからなくて…」 「うん」 「私は…萩山麗美の赤ちゃんが流れればいいって何度も思った…」 「俺も思った」 俺の言葉に、真白は俺を見上げる。 「…ホント?」 「神頼みもしたし、呪いかってくらい、願った」 「私も願った……だから、罰が当たったんだって」 「もし罰なら、真白だけの罰じゃないな。俺の罪も相当なもんだよ」 そう話すと、真白は少しだけ涙を流しながら頬をゆるめた。 「…恭ちゃんとの赤ちゃんを、守れなかった」 「真白、それは…」 さっきの病院の医師の話をしようとしたら、 「不安を埋めようとして求めた…。きっと、赤ちゃんが“それは違うよ”って教えてくれたんだね…」 そう話した真白の言葉に、胸が熱くなる。 真白を力一杯抱き締めた。 「ごめんね…」 真白が向けたその言葉は、俺にではなく僅か数週間だけ共にした小さな命への言葉なことはすぐに理解できた。 「恭ちゃん……泣いてもいい?」 真白の問い掛けに、目が潤む自分の気持ちをグッと堪えた。 「いいよ」 「ずっと…抱き締めててくれる?」 涙声で問い掛けるそれに、 「いいよ」 俺も震える声で応えた。 真白は声を出して泣き出した。 それに自然と、俺の頬にも涙が伝う。 ずっと抱き締め合った。 俺達にしかわからない傷みを、二人で分かち合いながら。
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