10. 導かれた居場所

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森野さんの壮大な誤解のおかげで、俺はスムーズに退社出来た。 オーナーの抱えている店に、俺の需要はなかったらしい。 心配して、夜、俺の様子を見に来てくれた藤木さんは、入ったファミレスで話を聞いてお腹を抱えて大笑いした。 「元々は藤木さんが、誤解を与えたんですよ?」 まだ治まらない大爆笑の藤木さん。 「そやけど!それで助かったやん?」 そう言ってまた笑う。 それはそうなんだけど…。 「いや~…しっかし、見事なオチ」 そう言って藤木さんは拍手した。 「いや、オチ狙ったわけじゃ」 「オチ大事やで~」 オーダーしたハンバーグセットが運ばれてきた。 たまたまなのかオーダーしたメニューは一緒だった。 目玉焼きハンバーグ。 「ハンバーグはやっぱり目玉焼きよな」 「旨いっすよね」 そう言いながらすぐに目玉焼きの玉子を崩した俺に、 「あぁ~!目玉焼き潰したん!?早ないっ!?」 と声を上げられた。 「えっ?」 「はじめは普通のバーグを堪能してやな。それから目玉焼きとの―」 「好きに食わせて?」 被せて言った俺に、また藤木さんは爆笑した。 「えぇやん!そのままきて!敬語なしで」 「あっ、いやそれは…藤木さんの方が年上だし」 「そんなん1年差なだけやん。そっちの方が美容師の腕はあるからな」 藤木さんのその発言に箸が止まる。 「えっ?」 「俺も出とってんで?アンタがグランプリ取ったあのコンテスト」 そう言われて俺は目を丸くした。 まさかの繋がり。 「俺、4位入賞」 そう言って笑顔を見せた藤木さん。 正直、俺の記憶になかった。 「ごめん…」 「かまへんよぉ!そんなん俺も、グランプリと自分の記憶しかないもん」 そう言いながらハンバーグを食べすすめる藤木さん。 「めっちゃ格好よかったやん?圧巻やった。誰もが認めるグランプリやった」 「いや、そんなことは…」 「いいやっ!凄かったッ!」 言い切られてしまう。 「あ、ありがとうございます…」 あまりに力強く言われて、そう返した。 「いや、だからっ!敬語いらんて!」 「あっ、はい、あっ、えっと…うん?…うん」 俺の最後の返事に満足したのか、藤木さんは満足そうに頷いて、ハンバーグを食べる。 「藤木さんって、めっちゃイイ人ですね」 「ですね?」 眉間にシワを寄せて聞かれる。 「あっ。イイ人」 「そうか?みんなこんなもんやろ」 敬語は禁止らしい。 「なかなか、こんな心配して来てくれたりは…」 「アホ。大阪人はあったかいねん。そこらの奴らと一緒にすな」 小さく何度も頷いてみた。 「そら、変なんもおるで?さっきまで勤めてたとこみたいに」 「あぁ~…」 「やけど、基本みんな世話焼きで優しいねん。全国で一番外国人に近い感性のある人間の集まりやからな」 「へぇ~」 「あっ、なんやその反応は」 藤木さんとの話しはテンポよくて、まるで昔から知ってるみたいに楽しい。 大竹と話す感覚に近い。 大竹はここまで話してはくれないけど。
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