10. 導かれた居場所

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「そや、仕事やけど、1件おすすめがあるねん」 「えっ?」 「関西では結構大きなサロンやねん。21店舗持ってはって、オーナーも3代目で老舗やねん。めっちゃええ人やから安心して」 藤木さんはポケットからメモを出して俺に渡してくれた。 「21店舗!?」 店名と本社の住所が書いてある。 「そうそう。府内だけでも12店舗。京都に3店舗、兵庫に3店舗、奈良に2店舗、和歌山に1店舗」 「すごっ」 「この間、求人出してるって聞いたから。そこは新卒以外求人は広告出さへんのや」 イデアルと一緒だと思った。 イデアルも求人広告は出さない。 「藤木さんは、ここに就職しないの?」 「あかんねん…」 「あかん?」 「そこ、彼女勤めてるから、何かちょっと…」 わかるようなわからない理由。 「興味あるんやったら、彼女に空き聞いたるで?まぁ、考えてみて?」 藤木さんはそう言って、伝票を取って立ち上がった。 「あっ、ここは俺が!心配して来て貰ったわけだし、こんな情報も貰ったし!」 「アホ、プータローに奢って貰えるかいな」 そう言ってそそくさと会計へ向かう藤木さん。 俺も寮から持ち出した荷物を全て抱えて後を追った。 結局、藤木さんにご馳走になってしまった。 「すみません。ご馳走さまです」 「おう」 二人で道頓堀を歩く。 「その顔の傷、ヤバイな。警察に被害届出したらどうや?」 そう言われて、昨日のケンカの傷をオーナーにされたと藤木さんが誤解していると思った。 「あっ、これは…」 昨日のことを説明すると、藤木さんは俺を憐れんだ。 「踏んだり蹴ったりやな…。こっち来てからいいことあったか?」 心配そうに問い掛けられる。 「いや、東京でも結構散々だったんで。俺、前世でだいぶ悪いことしたのかも」」 そう言って苦笑いした。 「星回りが悪いんやな。不運続きとか…」 「いや、でも、藤木さんに会えたし。神戸でも中林さんって言う―」 話している途中に藤木さんは俺の肩を抱いた。 「アンタむっちゃ可愛いなぁ」 笑顔で俺の肩を抱いてバシバシ叩く。 「いや、誤解されるから止めてくれ」 肩の手を退けようとする俺の肩をより固く抱く藤木さん。 「大丈夫や」 「いや、これ以上の誤解はちょっと…」 「真面目やなぁ」 大笑いする藤木さん。 「よし!ほな今日は飲み明かそう!」 「いや、俺、酒ダメで」 「はっ!?嘘やん!!」 「ホント」 「えーっ、面白ないなぁ~。しゃぁない、うちでコーヒー淹れたるわ」 「うち?」 「泊まるとこないやろ?泊めたるやん」 藤木さんに導かれて、地下鉄の階段の前に居た。 「いや、さすがにそこまで甘えるわけには!」 地下鉄の階段前で立ち止まる。 「ええやん。暫く居りーな。大丈夫や。俺、ノーマルやし」 「いや、それはわかってるけど」 「今彼女、パリ出張でおらんし」 「同棲してんの!?」 「そや。あっ、でも出張中やから、おらんで」 「いや、留守中に上がり込むわけには!」 また藤木さんが笑う。 「もう、真面目やなぁ。なんや可愛いなってきたわ、ホンマに。ほら、行くで」 俺はヘッドロックに近い感じで肩を抱かれて、ズルズルと地下鉄への階段を下ろされた。
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