10. 導かれた居場所

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藤木さんとその彼女が暮らすマンションは、オフィス街の国道沿いに並ぶ、コンパクトだけどやや高層のマンションだった。 「いいとこ住んでますね」 エントランスからエレベーターに乗り込む時にポツリと言った。 「あっ、わかる?この辺りは旨い店ぎょ~さんあるし、すぐ近くには靭公園もあるし、キタもミナミも自転車でスイスイやで」 12階建ての7階でエレベーターを降りた。 街並みは東京でいう日本橋の雰囲気に似ている。 エレベーター出てすぐ右奥の角部屋の玄関を開けた藤木さん。 表札には“藤木”と“池本”の名前が掲げられてあった。 「入ってやぁ~」 「お邪魔します」 都会のど真ん中のマンションだからか、真白と住んでいたハイツよりはコンパクトに思う。 でも二人で住むには十分の1LDKだ。 リビングに案内された。 綺麗に整頓されたリビングは、カラーがモノトーンで統一されていてスタイリッシュではあるけれど、所々に細やかなアクセントがあってモデルルームみたいだった。 「なんか、すごっ」 「やろっ?彼女、カラーリストで主にヘアメイクやってんねんけど、なんかこーゆーのも好きで色に拘りがあるんよ」 どうぞとすすめられたソファに座る。 「そのソファ、ソファベッドになるからそれで寝たらいいわ。ケンカした時に俺が寝る場所」 藤木さんはそう言って自虐的に笑いながら、カウンターキッチンで手を洗い、ゴソゴソ作業をはじめる。 「ケンカ…するの?」 「めっちゃする。バリバリする。先週もしたで」 真白とは、同棲中もケンカらしいケンカはしなかった。 「何をケンカするの?」 「え~?便所の蓋の閉め忘れとか、風呂入った後に鏡の水滴拭いてなかったりとか、食べた後にコップ片付けてなかったりとか?」 そ、それでケンカになるのか。 「もはやケンカと言う名のガス抜きやな」 こちらを見てそう言って笑った。 「ガス抜き…」 「そや。彼女、めっちゃ意識高い系やからストレスためやすいねん。だから、バッて俺に言うたら楽になるみたいで」 「年上?」 「いいや、2つ下。童顔で可愛いで」 コーヒーマシーンを作動させながら、そう話した藤木さんの顔が綻んだ。 「高校の時に知り合って、もう13年以上の付き合いになるねん」 「13年!?」 俺と真白より長い。 「結婚は?」 「あぁ……みんなそれ聞く」 苦笑しながら、藤木さんはコーヒーが入ったマグカップを持って俺に持ってきてくれた。 「あっ、ごめん。余計なことを」 俺も周りによく聞かれた。 何で毎回聞かれるんだろうと思ってたけど、意味なく聞いてしまうもんなんだと思った。 「こればっかりはタイミングが合わへんねん。俺がしたい時は向こうの結婚熱があんまりで、向こうがしたい時は俺があんまりやったり、俺の仕事がほら、社員ちゃうから向こうのご両親に何て言おうとか…」 なるほど…。 「反対されてるわけじゃないの?」 「いいや。多分、結構、だいぶ、フレンドリー。年末とか泊まらせて貰ったりするし」 「マジで!?」 俺の食い付き具合に、藤木さんはニヤッと笑う。 「なんや、彼女の親と上手くいってへんのか?」 「いや、まぁ…いかなかった感じ」 「いかなかった?」 「俺も5年ほど同棲してたけど、なかなか結婚認めて貰えなくて…」 「5年!?5年も一緒に住んどったん!?」 目を丸くする藤木さん。 「えっ?そっちこそ13年一緒にいるんだろ?」 驚かれる意味がわからない。 「いや、そやかて、13年間付き合いあるだけでお互い純粋に13年間付き合ってたわけちゃうしな。空白の1年とか空白の3年がある」 「何それ?」 「いや、だから、お互い離れた時期もあってん。違う人と付き合ったり?やけど、結局戻ってまうねん。」 驚いた。 想像しなかった回答だったから。 「そんな、高校の時から純粋に13年間はなかなか難しいで。同棲だって始めてまだ1年くらいやしな」 藤木さんがなぜ5年に驚いたのか、理解できた。
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