10. 導かれた居場所

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「いや~…5年は凄いわ。もはや夫婦やん。事実婚やん。なんで相手の親に反対されてたん?」 なんで…? “真白との結婚は認められない” “君は何か勘違いしてないか?” “そんなことで私の気持ちは変わらない” 真白のお父さんの言葉。 …今ならわかるような気がする。 「俺が誠実に対応できなかったんだ。格好ばかり気にして…」 「ふ~ん…。なんや、厳格な親やったん?」 藤木さんは自分の分もコーヒーを持ってきて、クッションの敷いた地べたに胡座をかいた。 「…厳格」 「あっ、でも同棲は認めてくれたから厳格の中の厳格でもないんか。どんなん?めっちゃ怖いとか?」 真白のお父さんが頭を過る。 「サイボーグみたいな」 「えっ!?ムキムキ!?」 「ムキムキってわけじゃないけど、あんまり表情から読み取れないんだよね。俺、大抵の人とは上手くコミュニケーション取れたんだけど、彼女のお父さんとは上手くいかなくて…」 俺の言葉に大爆笑する藤木さん。 「そんなんお互い警戒しあってんのに無理に決まってるやん!向こうは俺らのこと盗賊やと思ってんで?そらそやろ、20年以上丹精込めて育てた娘取られそうになるんやから、向こうも必死やろ」 「いや、でも、さっきめっちゃフレンドリーだって―」 「あぁ、それは建前やん。俺の場合はお母さんに気に入って貰えて、彼女の発言権も強くて、反対なんてしようものなら、お父さん総すかんになりそうな家や」 「…」 俺と状況が全然違う。 「やけど、本音は俺のこと成敗したいはずや」 「なんでわかるの?」 「俺を見る目がギラギラしとる」 思わず笑ってしまう。 「ちょっとずつ、ちょっとずつやん。実家泊まらせて貰ったり、お酌させて貰ったり…距離を縮めてくねん。年末年始なんかここで酒飲んでる方が楽に決まってんねん。やけど、これも距離縮める為には小さな努力をコツコツと」 「なるほど…」 俺は距離を縮めるどころか、距離をとっていた…。 肩書きやそんなのを気にして、そればかりに力を注いで、コミュニケーションを取らなかった。 「まぁ、次は頑張りや」 藤木さんは立ち上がり、俺の肩を叩いた。 「次?」 「そやん。別れたんやろ?その彼女とあかんかったんやろ?失敗は次に生かさな」 「…次はないよ」 「悟りを開くのはまだ早いで。まぁ別れた直後はそんなん考えられへんよな」 藤木さんは自分のマグカップを持って、キッチンに移動する。 淹れて貰ったコーヒーの水面を眺めながら、真白を思い出す。 “恭ちゃん” カシャッ… カメラの音がしてハッとした。 藤木さんがキッチンから俺をスマホで撮影していた。 「おい!何!?」 立ち上がって思わずスマホを鷲掴みにしに走った。 驚く藤木さん。 「あっ、勝手にごめん!」 「何撮った!?」 「横のシルエットや!ごめんって!彼女からLINE来て、人泊めるって伝えたら“女ちゃうやろな?”ってきたから、写真送ろう思って…」 意味がわかって、ホッとしてスマホから手を離した。 「断りなく撮って悪かったな」 「あっ、いや、うん…こっちこそ、ごめん」 「ちゃんと消すから!送るのも止めとくわ!」 そう言って見せてくれた画面は、キッチンから映る俺の横からの全体の姿で、ほとんど顔はわからない。 「あっ、大丈夫。彼女だって、心配だと思うから送ってあげて…」 「えっ?」 「ごめん…」 週刊誌に、どこから入手したかわからない俺の写真が載っていた。 勿論顔がわからないように加工はしてあったものの、見る人が見れば俺だとわかる。 だからか、過敏になっていた。 「先にシャワーしたらどうや?」 「あっ、でも…」 「さっぱりするで!なっ!」 めちゃくちゃ不自然だった俺のことを、気遣ってくれる藤木さん。 おかしいと思ったはずだ。 でも、何も聞いてこなかった。
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