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茶屋町のコーヒーカフェのテイクアウトを頼んで、外の広場で池本さんとコーヒーを飲んだ。
「ごめんね。なんかこんなことになってしまって…」
申し訳なさそうな横顔。
俺達は道沿いに均等に並ぶ車避けのポールに腰掛ける感じで凭れて並んでいた。
「いやいや、謝って貰うことじゃ全然ないから。逆に手間取らせてごめん」
俺がそう言うと、彼女は苦笑する。
「剛がね…アナタのこと、めちゃめちゃ心配してて」
「えっ?」
「私、そんな出会ったばかりのよくわからん人のこと何でそんな心配するねん!?って聞いたんよ」
池本さんの言う通りだと思う。
「なんて?」
「グランプリ取ったアナタの手捌きが忘れられへんっ言うのよ」
彼女はそう言って笑った。
「剛がそこまで言う人やから…私も仕事一緒にしてみたい気持ちあったんよ」
微笑む彼女は、きっと俺より、藤木さんと一緒に仕事をしたいんじゃないかと思った。
「いつか、藤木さんと店持ったら?」
提案してみた。
俺はイデアルの新城代表に憧れて、この業界に入ったけれど、美容師になったからにはいつか店を持ちたいと思う人は多い。
「無理やわ。経営管理なんてアイツ絶対できひん。消費税の計算も8%になって面倒くさがるような人間なんよ?」
思わず笑ってしまう。
「池本さんがしっかりしてたら、大丈夫なんじゃない?」
「いや…私も無理やわ。神経すり減るような環境では自分の力発揮できひん」
雇うより雇われたい派のようだ。
「あっ、神戸のその店、気を使ってわざわざ行かんでもいいからね」
「いや、でも折角紹介して貰ったから見てきてみるよ」
そう言って腰掛けていたポールから立ち上がる。
「今から行くん!?」
「折角だから、行ってくる」
「フットワーク軽ッ」
そう言って池本さんもポールから離れる。
「神戸で世話になった人も居て、その人に返したい借りもあるから」
そう言うと池本さんは理解したようだった。
「じゃ、私も仕事してくる。そろそろ出勤時間やわ」
「うん。ありがとう」
池本さんにお礼を言って、俺は銀行でお金を下ろして神戸・三宮に向かった。
三宮に着いて、中林さんの店にすぐに向かったものの店は閉まっていた。
そう言えば、水曜日以外は完全予約だと話していた。
今日は火曜日だ。
そのまま、中林さんのマンションまで向かって訪ねたけど留守だった。
夕方になれば、あのバーが開くだろうから、そこへ行ってマスターに中林さんのことを聞いてみよう。
それまでは…
ポケットから出した、原谷さんに貰ったメモ。
「居留地?」
場所が書いてあるものの、見当がつかない。
スマホを出して検索する。
歩いて行ける距離だった。
俺はその店に向かった。
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