10. 導かれた居場所

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スマホを頼りに辿り着いたヘアサロンは、欧米を意識した造りで街並みにもフィットした小規模の店だった。 大きい窓が二枚に、真ん中にガラス張りの二枚扉。 中は遠目でも確認できた。 スタッフが5人。 スタイリストは…2名くらいか? 事足りてるように思う。 「これは…」 スタイリスト…募集してないように思う。 だけど… こじんまりとした店だけど、なんかいい。 ちょっと惹かれる。 原谷さんの名前を出して訪ねてみるか… いや、でも… 悩む。 暫く悩みに悩んで、結局俺は飛び込みで客になってみた。 ちょうど髪も切りたかったし、空いていればと期待して店に入ってみた。 「いらっしゃいませ」 扉を開けて一歩足を踏み入れたタイミングで、店のあちらこちらから声が上がった。 30代くらいの男性スタッフがすぐにこちらに寄ってきた。 「いらっしゃいませ」 「あっ、すみません。予約してなければ無理ですか?」 「御来店ありがとうございます。メニューはお決まりですか?」 「カットだけです」 「ご指名ございますか?」 「いえ、ありません」 「ご案内出来ます。どうぞ!」 店内奥へと案内される。 革張りのソファセット台。 座り心地がいい。 店内はやっぱり洗練されていて、店のコンセプトがハッキリ見える。 案内してくれた男性が担当すると挨拶があった。 スタッフは外から見えた通り5名。 客は俺含めて4名、20代後半くらいの女性が2名と俺と、シャンプー台に居る足元を見るに男性。 「どのようにさせて頂きましょう?」 「あっ、全体的に軽くする感じで―」 鏡越しにそう言い掛けた時、シャンプー台から起き上がった男性が鏡越しに見えた。 思わず振り返る。 「お客様?」 担当の男性が驚く。 振り返り見たそのシャンプーチェアから立ち上がった男性と、目が合う。 「恭一郎!」 「中林さん!?」 同時に互いを認識して声を上げた。 頭にタオルを巻いた中林さんと、数日ぶりの再会。 「お客様、前オーナーとお知り合いですか?」 担当の男性に問い掛けられる。 「前オーナー?」 意味がわからず問い掛ける。 シャンプー台から離れ、隣の席に着座した中林さん。 「昔の話や。もうオーナーちゃうねん。ただのお客様や。お前ここで何してんねん?」 中林さんが笑う。 「あっ、いや、あの、原谷さんにこの店を聞いて…」 「原谷さん?…誰や?」 中林さんの発言に、担当の男性が慌てて中林さんに、 「ヘンリーのオーナーですよ!」 と教えた。 “ヘンリー”は池本さんの勤めるお店で、原谷さんのヘアサロンの名前。 「ヘンリーか!」 中林さんが理解したようだった。 「うちの染谷オーナーと仲良かったんちゃうか?」 中林さんの問い掛けに、俺の担当してくれているスタッフも、中林さんについてるスタッフも大きく頷く。 「染谷オーナーと地元の先輩後輩の仲だと伺ってますよ」 俺の担当がそう話した。 原谷さんの言った通り、後輩のお店で間違いはなかったようだ。
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