11. 意見陳述

3/12
前へ
/300ページ
次へ
夕方の予約に店に現れたのは、藤木さんだった。 「何で?」 俺の驚きに、喜ぶ藤木さん。 「驚いた?驚いた?よっしゃ!!」 嬉しそうな藤木さん。 「恭一郎、知り合いか?」 「あっ、こっちで出会った―」 「マブダチですっ」 吾郎さんの質問に答えようとした俺に被せて、藤木さんが答える。 「そうか。なんや新規の客なんて珍しいなぁ思てたんや。ほんなら、恭一郎が切ったれ」 吾郎さんはそう言って、カウンターの横にあるベンチソファに座ってしまった。 「えっ!?」 「そうして貰えたらええわ!この間切って貰ったん、気に入っててん。今回はさぁ、ちょっと染めたいんやけど」 注文をつけながら、セットチェアに自ら座る藤木さん。 吾郎さんは、もう新聞を開けてこちらを見ていない。 「今流行りのカラーで遊びたい気持ちもあるんやけど、俺ってほら、わりと顔立ちハッキリしてるやん?カラーで目立つのもなんやし―」 喋り続ける藤木さんの首にタオルを巻き、カラー専用のクロスをまいていく。 一通り注文も聞き終えて要約すると、カットもカラーもお任せだった。 吾郎さんはこちらをチラリとも見ずに、新聞を読み耽っていた。 「なぁ~」 カラー中、鏡越しに藤木さんに呼ばれる。 「はい?」 「めっちゃオシャレで贅沢な店やな」 「うん。俺もはじめて来た時思った」 藤木さんは目をキョロキョロさせて、周りを見ていた。 そして、暫くして、 「あのじいさんと、血繋がってるわけちゃうんやんな?」 藤木さんが小声で聞いてきた。 「全く」 「そうなんやぁ。余程気が合うねんな」 感心したように俺を見て、少し近づくようにジェスチャーされる。 腰を屈めて近付く。 もう少しと指をクイクイジェスチャーされる。 もう少し近付くと、顔のマスクを鷲掴みされて、取り上げられた。 「なっ!?」 驚く俺。 カラーのブラシを持っている上、薬剤も付着しているため、手を出せない。 藤木さんはイタズラに笑う。 「いらんやろ?マスクなんか」 そう言ってくしゃくしゃポイッと床に投げ捨てた。 「いや、まぁ、そうだけど」 ニヤニヤ笑う藤木さん。 「男前な顔してんねんから、見せとき」 そう発した藤木さん。 「お前ら……デキとるんか?」 新聞を読み耽っていた吾郎さんが、こちらを見て聞いていた。 「なわけないですからっ!!!」 全力で否定する。 藤木さんだけが大爆笑だった。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8491人が本棚に入れています
本棚に追加