11. 意見陳述

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店の中に入ってテーブルに座ると、藤木さんは初めて俺がこの店を訪れた時と同じリアクションをしていた。 派手な内装を見渡し、水とおしぼりを持ってきた陽気な店員を凝視する。 「マタキテクレタン。今日モ、バターチキンカレーカ?」 陽気な店員は俺のことを覚えていてくれた。 「あっ、いや…今日は別のにします」 「ソウカ。決マッタラ、マタヨンデクレタライイカラネ~」 「はい」 一度陽気な店員はテーブルを離れていく。 「なんか、めっちゃ突っ込みどころ満載の店だな。アレ何?」 指差したのは、ディスプレイなのか魔除けなのかわからない、随分リラックスした女神のような置物。 「さぁ…?俺も、吾郎さんに連れてきて貰っただけだから。でもカレーも旨いから」 「カレー屋言うから、カウンターのカレーライスか神戸やから洒落た洋食屋か何かと思てたら、ここでビックリしたわ」 そう言いながらも、藤木さんはしっかりメニューを見てオーダーをした。 「タンドリーチキンとサモサ、それからキーマカレーとチーズナン」 食欲旺盛。 「そんなに食える!?」 「大丈夫ヤ。若イカラ食ベラレルヨ~」 俺の心配を一蹴りする陽気な店員。 「アンタ、ナニスル~?」 「あっ、じゃ、ブラウンカレーに普通のナン」 俺のオーダー。 「飲み物ハ~?ビール冷え冷えヤデ~」 「冷え冷えなん?」 「タンドリーチキン、ビールメッチャ合ウ!」 「それ貰うわ!」 陽気な店員に既に馴染む藤木さん。 「グラス2?」 の問い掛けに、 「いや、1つでいい」 と俺が答えると、 「アンタ、飲メヘンノ?車?バイク?」 と聞かれる。 「俺、酒飲めない」 と言うと、慰めるように肩を叩いて陽気な店員はキッチンへと去って行った。 一連流れを見ていた藤木さんは大ウケだった。 「面白いな、この店!」 気に入ったようだった。 瓶ビールとグラスを直ぐに持って来た陽気な店員は、俺にサービスだとラッシーをくれた。 俺はそれを有り難く頂いて、ビールの藤木さんと乾杯。 藤木さんは一口飲むと、旨いっと唸った。 「池本さん、元気?」 俺が問い掛けると、藤木さんはビールを飲みながら二度三度頷く。 「千穂も心配してたで、どうしてるか」 「有難い…」 「また、うちにも遊びにおいでや。会いに来たって」 「うん…ぜひ」 純粋に嬉しかった。 「あっ、千穂もビックリしとったわ」 「えっ?」 「千穂が“墨君は女子のエスコートが上手や”言うから、5年同棲した彼女が居ったらしいでって話てん」 「それに?」 「驚いとった。…あっ、ごめん。ペラペラと話してもて」 「いや、別に隠すようなことじゃないから」 俺はそう言ってラッシーをストローで一吸いする。 「…どんな子やったん?」 「うん?」 問い掛けられて、真白を想い出す。 「…穏やかだけど、芯がしっかりしてて、素直で嘘のつけない優しい子」 “恭ちゃん” 真白の笑顔を思い起こす。 「べた褒めやん」 「えっ?」 「なんで別れたん?サイボーグ親父に致命傷負わされたんか?」 その問い掛けと同じタイミングで、 「オマタセネ~。アツアツタンドリーチキンダヨ~」 陽気な店員が鉄板でタンドリーチキンを持ってきた。 「次々クルカラネ~」 予告通り、テーブルいっぱいにオーダーしたメニューが全部並んだ。
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