11. 意見陳述

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「致命傷を負わせたのは俺だ…」 タンドリーチキンにかぶり付く藤木さんに、呟くように言った。 「ん!?」 モグモグとタンドリーチキンを食べて、口をおしぼりで拭き取る藤木さん。 俺はナンをちぎって口に放り込む。 「えっ!?何?浮気でもしたん?」 浮気とか…そんな次元の話ではないと思っているけれど、ある意味浮気なのかもしれないと答えに悩む。 「まっ、まっ、まぁええやん!終わったことは!俺も詳細は聞かんとくしっ!」 藤木さんは俺の表情を読んでか、そう話をまとめた。 俺以上にテンパる藤木さんに、なぜか和む。 「まぁ、失敗して、人間は成長していくんやし!元気出しや!ほら、タンドリーチキン食え」 タンドリーチキンをすすめてくれる。 酒も飲めない俺と、少しほろ酔いの藤木さんとのカレーを食べながらの会話は弾んだ。 1時間半以上かけて、全てをたいらげて、店を出た。 「アンタラ、スゴいヨ~。全部食ベタン?エライヤンカ」 と陽気な店員に驚かれ、 「マタキテネ~」 と見送られた。 「遅くなって、池本さん心配してない?」 駅まで歩きながら、藤木さんに問い掛ける。 「大丈夫や!終電までに帰るのがお互いのルールやから。お腹苦しいからもうちょいゆっくり歩いて…」 懇願するように言われて、歩くスピードを落とした。 脇腹を押さえながら歩く藤木さん。 「大丈夫?」 「あの店、ボリューム半端ないな」 「だから言ってたのに」 「あの店員が食える言うから」 「でも驚いてた」 そう話して二人で笑う。 「あの店でホンマにいいんか?」 ふいに聞かれた。 「墨恭一郎の腕が泣いてへんか?」 思わず少しだけ笑ってしまう。 「色々あって、あんまりシザーも握ってなかったし…今はいい環境にいると思う」 正直な気持ちを話した。 「…」 「毎日が楽しいよ」 「…お前、社内不倫とかして干されたんちゃうやろな?」 際どいとこを当ててくるから、思わず苦笑いした。 「藤木さんこそ、そろそろ落ち着いたら?」 話を反らした。 「…千穂が何か言うとったか?」 「別に、何も」 「ホンマかぁ?」 「年齢を考えると、のらりくらりしてる時間はないと思うよ」 自分がちゃんと出来なかったから、余計にそう思う。 「30前後の女性の1年と、男の1年は違うよ」 「なんや、重い話をするなぁ」 藤木さんは鼻をすする。 「大事な人の存在を、当たり前だと思わない方がいい」 人に説教なんて出来る立場じゃないけれど…本当にそう思うから。 「なんか、ズーンってくる言葉言うやん」 藤木さんは茶化さなかった。 「俺かて考えてはいるんやで」 「うん」 「そろそろ…ちゃんとしなって」 「うん」 「ただ、納得できるとこで働いて、落ち着きたいと思ってるから…結婚するんやったら、責任もあるし…」 「うん」 気持ちはわかる。 「俺なんで、こんなんカミングアウトしてんねんやろ。恥ずっ」 道端でしゃがみこむ藤木さん。 「ほら、駅もうそこだから、立って。終電になっちゃうよ」 俺は藤木さんの腕を引っ張った。 「千穂には内緒やでっ」 すがってくる藤木さん。 「言わねぇよっ」 思わず吹き出した。
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