1. 失ったあの日

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3日ぶりに風呂に入った。 真白と二人でよく入った湯槽に一人で浸かる。 やけに広く感じた。 ゆっくり風呂に浸かって、全部を洗い流した。 久々の風呂は、体力を使ったみたいに疲れた。 「体力落ちてる。マジでヤバい」 思わず呟いた。 下半身はスウェット姿。 上半身は熱くて裸のまま、バスタオルを首にまいて水分を求めて冷蔵庫を開けた。 冷蔵庫の扉部分にあるお茶のペットボトルを取って扉を閉め、開栓し飲む。 「……」 ペットボトルの蓋を閉める。 何か一瞬感じた違和感。 あれ? もう一度冷蔵庫を開けた。 思わず右手で口許を覆う。 プラスチック容器がいくつも並んでいた。 その一つを取る。 《冷蔵庫で18日まで》 真白の字で書かれていた。 ペットボトルを床に置いて、プラスチック容器の中を開けると、俺の好きなタンシチューだった。 《冷蔵庫で今月中まで》 そう書かれていたのはピクルス。 ほかにも煮豚や、しぐれ煮…日持ちするものばかりだった。 プラスチック容器をいくつか抱えたまま、冷凍庫の引き出しを開ける。 アイスクリームや冷凍してる肉の容器をのけると、そこにも付箋で賞味期限を書いたプラスチック容器が出てきた。 思わずその場に座り込んだ。 “…このまま一緒にいたら、共倒れになる。いつか、傷付け合うことになる” “ごめんね。ずっと側にいるって言ったのに…” 真白はどんな思いで俺にあの言葉を言ったんだ? 荷物も少しずつ運び出して、 こんな食事まで用意してくれて、 “裁判はしっかり九条先生に入って貰うから…安心して―” “…突然じゃないよ” いつから、準備してた? “…突然じゃないの。ずっと考えてた” どんな想いで俺の側にいて、 どんな想いで準備して、 “一緒にいても、辛いだけだから…” どんな想いであの言葉を? “お互い幸せになれないよ” 真っ直ぐ合っていた目を、真白はそらして右下を向いた。 あれは、嘘をつく時の… 誤魔化す時の仕草だ。 “…一緒に居るのが辛いの。苦しいの…” どんな想いであの言葉を俺に向けた? 大粒の涙を流していた、 どうして気付かなかった? どうしてすぐにわからなかった? “私を……この苦しみから解放して…” 真白が解放されたかったんじゃない…。 真白が俺を解放したんだ…。 真白が俺を…。 “私を解放してください…っっ” 「………っっ」 右腕で口を塞いで、泣き叫びたくなる感情を息に変えて吐く。 「…真白……ごめ…っ…」 俺は冷蔵庫の前で項垂れて泣くしかなかった。 泣くしかなかったんだ。
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