12. 一区切り

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―――…… 「絶対この革張りソファなんだよな…」 「私もそう思う」 「やけど、予算大幅に出るんやろ?」 店に入れる家具や小物を決めに、藤木さんと池本さんとの3人で大阪のインテリアショップに来ていた。 店に絶対合う革張りのソファをやっと見つけたものの、予算がオーバーしていた。 「サイズは?池本さんどう?」 俺の問い掛けに彼女は手元の図面とメモをチェックして、 「ピッタリ」 と答えた。 「マジかぁ……欲しいなぁ」 革張りのソファに座り項垂れる。 チラッと前のローテーブルに置かれているソファのプライスカードを見る。 予算より15万のオーバーだ。 これだけじゃない。 この前決めた、店の仕切りカーテンやブラインドも若干予算オーバーしてた。 「ソファは存在感もあるし、後々モデルの写真撮影も出来るように空間取ってる部分でもあるから、妥協したらあかんのちゃう?」 池本さんにそう言われて俺もそう思う。 「そや、もうちょい、吾郎さんに金借りたら?」 藤木さんの提案。 「いや、無理!それはしない」 十分借りている。 これ以上の借金は身の丈に合わない。 「ほな、このソファは諦めやな」 簡単に言う藤木さん。 「でも、何軒もまわってやっと見つけた納得のソファやのに?」 池本さんの意見に激しく同意するも、15万オーバーはさすがにやりすぎだ。 ソファに凭れて天を仰いだ。 「他で削られへん?」 池本さんは書類を出してペラペラとそれを捲る。 「この施設管理で組んでる予算③って何なん?」 池本さんが俺の横に座って、書類を見せてくれた。 「あぁ…それ毎月の固定費。店の観葉植物とか任せる業者への支払い」 「…人気店ちゃうねんから、そんなん自分で管理しぃや。無駄金や。削減」 池本さんは持っていたペンでチェックを入れる。 「俺ダメなんだよなぁ…植物いつも枯らせるから」 「観葉植物なんて気付いた時に水やってたら枯れへんから」 「いや…それが枯れるんだよ。ローズマリーも瀕死状態を友達に預けて生き返ってくれたけど、俺の側に居る時は育たないし辛そうなんだよ」 「ローズマリー?何の話?観葉植物の話やから」 呆れる池本さん。 「…上手く育ててたんだよな…。観葉植物もハーブも、真白は」 溜め息混じりにふいに呟くように出た。 「マシロ?」 池本さんに問い掛けられる。 「あっ、いや、ごめん…何もない」 疲れてるのか心の声が出た。 俺は立ち上がり、ポケットからスマホを出してプライスカードを写メする。 「とりあえず、このソファは保留。」 家具を見終えると、池本さんは午後から仕事があるから帰って行った。 藤木さんと俺は、遅めの昼食を適当に入った定食屋で摂る。 カウンター席に並んで座り、唐揚げ定食を食べた。 「池本さん、まだ怒ってるよな?」 「墨には怒ってへんで。俺にやん」 「いや、まぁ、でもさ…。いつ潰れるかわからない泥船に乗せたのは俺なわけだし」 そう言うと藤木さんは笑う。 「泥船て。頼むで、社長」 「社長とかやめてくれ」 「ほんなら、ボス?」 「マフィアじゃないんだから」 それにもウケる藤木さん。 藤木さんは唐揚げを食べながら、鼻から息を吐いた。 「まぁ、真面目な話。別に墨に怒ってるわけちゃう。俺が相談もせんと決めたからや」 そう言って水を飲む。 「やけど、俺はボスの店で働きたいって思たんや。そこでちゃんと根を張るつもりや!」 「いや、張れたらいいけど、保障できないから」 そう言った俺の肩をバシッと叩く藤木さん。 「なんや弱気やな。頼むで」 わかってる。 自分一人じゃない。 藤木さんの人生を捲き込んだわけだから…。
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