8526人が本棚に入れています
本棚に追加
唐揚げ定食を食い終わり、会計を済ませて店を出た。
「あっ、そうだ。明日明後日なんだけど、オフで」
「2連休?日月で?」
「うん。ちょっと東京に戻るから」
「また東京?先月もやん。東京に女でもおるんかぁ?」
俺は肩をすくめて首を横に振って笑った。
「先月なんて2回行っとったやろ?」
「よく覚えてんな」
「東京に女おるやろ?」
定食屋を出て商店街を並んで歩く。
「用事だよ」
藤木さんには何も話せていなかった。
これから長く付き合う関係になるのだから話した方がいいのはわかっている。
だけど、事件も過去も知らない彼と接することは、俺にとって貴重だった。
藤木さんは、俺に遠慮なく突っ込んでくれるからだ。
「そやけどさ、女子紹介したろって話してもいらん言うし、遊んでる風でもないし…」
「今は、覚えることもやることも手一杯でそんな暇ないよ」
「いや、そやけど溜まるもんは溜まるやろ?」
小声で耳打ちしてくる。
この男は、真っ昼間の商店街で何てことを聞いてくるんだろうか。
軽蔑の目を向けると、
「なんやねん、その目は」
と開き直られた。
「お前、童貞高校生ちゃうんやから、純情ぶるなや」
あまりの声の大きさに、思わず彼の口を塞いだ。
「ここ商店街!昼間っっ」
周囲を気にしながらそう注意したものの、彼は俺の手を振り払う。
「ガチャガチャしとるから誰も聞いてへんわっ」
そう言う問題じゃない。
「あっ、もしかして、まだ元同棲相手のこと吹っ切れてへんのか?」
そしてまた、確信部分に触れてくる。
「もう半年以上は経ってるやろ?」
1年経った。
「いつまでも引きずっとったら、おっさんなってまうで」
「もうおっさんだよ」
「30の男なんてまだピッチピチやん。男なんて今からやろ!」
思わずその表現に笑う。
「まだまだモテるから、大丈夫や!」
肩を組まれて慰められる。
「いや、ホントに今、そんなのいらないから」
「そんなの!?」
驚きを隠せない様子で俺を見る。
俺も藤木さんを見る。
「女いらんの?」
「いらない。ってか、多分無理だと思う」
真白以外の女性をとは思わないし、彼女以外に触れたいとかそういった感情も起きない。
青くなる藤木さん。
「お前……本物のあっち系か?」
組んでいた肩を自ら離し距離を取る藤木さん。
「違うから」
否定しても疑いは晴れない。
でも、複雑な話だからそれ以上の説明はしなかった。
「そうだ。火曜に求人広告の打ち合わせ入れたから、それ頼んでいい?」
話を変えて藤木さんに頼んだけど、返事が返って来ない。
振り返ると少し距離があった。
「お前、まさか俺のこ―」
「絶対ないから。男に興味はない」
全部言う前に被せて否定した。
「求人広告の打ち合わせ、火曜日、10時、宜しく」
もう一度依頼。
「ぎょ、御意」
最初のコメントを投稿しよう!