2. 裁判のはじまり

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あの夜は麗美さんが発起人の決起大会だった。 平日のど真ん中。 お店も早目に閉めて、店のメンバー全員で近くの飲食店で開催された。 パワハラ紛いなことをしていた店長が、麗美さんが帰国して店に入ったことでそれが公になり処分された。 店長は退職して、店の風通しがよくなり、みんな張り詰めていた糸がゆるんだのかよく飲んだ夜だった。 俺もみんなと一緒に飲んで楽しんだ。 真白のお父さんのこともあって、飲みたい気分だったから、いつもより飲んでたと思う。 二次会に流れるタイミングだったか、麗美さんにホテルのラウンジに誘われた。 副店長の位置付けに居る俺は参加しない方が皆が盛り上がるんじゃないかと麗美さんに言われたのと、今夜なら新城代表も空いていてやって来るからと言われて、麗美さんとホテルのラウンジに行ってしまった。 ホテルのラウンジはクラブラウンジで、雰囲気のいい高層階の夜景の見える場所だった。 半分酔いながらも、その景色を見て“真白が見たら喜びそうだ”と思った記憶がある。 はじめは1杯、2杯を飲みながら仕事に絡んだ話。 待っても新城代表が来ないから、麗美さんが電話をしてくれた。 今思えば、それはフリだったんだと思う。 「仕事が終わらないみたいなの。それまで墨君にって」と麗美さんは言ってショットガンを用意された。 新城代表らしい悪ふざけに感じたし、昔からそんなことはあることだったから、笑いながらそれを飲み、来たときにわかるように、空にしたグラスを並べた。 新城代表が来るまでに、話をまとめておこうと、真白のお父さんのことを聞かれて、今までの関係性を麗美さんに話したと思う。 麗美さんは聞き上手だった。 「わかる。八方塞がりだって思うわよね」 「辛いわね…。結婚となれば相手の親を無視出来ない」 そんな風に俺の気持ちに寄り添ってくれた。 そして、 「墨君の場合はあのお母様がいらっしゃるものね」 「彼女のご両親とは随分違う。考え方の違う両家は大変だと言うわ…」 「前途多難ね…」 母親の話もした。 麗美さんは、俺の生い立ちを知っていた。 それとなく事前に知っていたことと、昔俺が話していたことをよく覚えていた。 母親のことは、俺の中でずっと悩みでもあった。 そこは俺がどんなに頑張っても解決しない部分だからだ。 俺はつい、飲み過ぎてしまった。 軽率で愚かな行動だったと思う。
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