2. 裁判のはじまり

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スマホの目覚まし時計の音がして、我に返った。 ベッドに置いていたスマホを取って、タップし、目覚ましを解除する。 結局一睡も出来なかった。 あの夜のことを考えるといつもループになる。 なぜ付いていってしまったのか、 なぜ話してしまったのか、 なぜ嘘を見抜けたなかったのか、 そんなことばかり考えて、自己嫌悪に陥る。 ベッドから起き上がる。 もう真白は居ないのに、ベッドの真ん中では眠れなくて、彼女の半分のスペースを空けていた。 真白がいつも眠っていた場所を見つめる。 “おはよう…恭ちゃん” 出勤時間の関係で、真白の方が起床はいつも早かったけれど、休みが重なった日はベッドの中に居て俺が起きるのを待っていたり、まだ眠っていたりだった。 休みの前夜は真夜中まで愛し合うことが多かった。 疲れて起きれなかったりもあったんだと思う。 毛布にくるまった彼女が、俺に朝の挨拶をする姿が堪らなく愛しかった。 “おはよう…恭ちゃん” 少し恥ずかしそうな笑顔を想い出す。 それを想い出すだけで、優しい気持ちになれるのに… 現実に引き戻される。 俺は立ち上がり、洗面所へ行き顔を洗った。 冷たい水で顔を洗って自分を奮い立たせた。 水を流したまま、洗面所の鏡で自分の顔を見る。 情けない男の姿。 俺は水を止めて、フェイスタオルで顔を覆った。 九条先生との約束は昼過ぎの13時半だった。 真白の用意してくれていたタンシチューは冷凍庫に入れて、ピクルスを噛った。 ローズマリーの香りがするピクルス。 ベランダで育ったハーブを上手に利用していた彼女。 ふいにベランダのプランターが気になった。 ずっと開けていなかったベランダのカーテンを開ける。 太陽の日射し。 ベランダを見ると、プランターのハーブは若干萎れていたけれど健在だった。 慌ててキッチンに戻り、ケトルに水を入れてハーブ達に水を与えた。 近所のおじさんの豪快なくしゃみが聞こえる。 真白がよく笑っていた。 その笑顔をまた想い出すと、真白はケトルではなく、ジョウロで水やりをしていたシーンを思い出した。 「あれ?」 ベランダを見渡すと、ジョウロはない。 キッチンに戻り、キッチンも見渡すも、ジョウロはない。 まさかジョウロは持ち帰っていないだろう…。 結局出発までにジョウロは見付けられなかった。 真白のじょうろはブルーに近い、水差しのようなじょうろだった記憶がある。
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