2. 裁判のはじまり

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だいぶ早目に出たはずなのに、九条法律事務所に到着したのは約束時間ギリギリだった。 嘔吐し、汗ばんだ自分が臭わないか気になった。 事務所の扉の前で自分を匂う。 多分、大丈夫。 もし真白が居たらどうしよう…。 どんな顔をしたらいい? どんな会話を? ジョウロやさっきの嘔吐のこともあり、何も考えずに来てしまった。 扉の前で右往左往したいくらいの気持ちで、固まっていると、 「あれ?墨さん?」 声を掛けられてビクッとした。 声をした方を見ると、コンビニ袋をぶら下げてこちらに向かってきた三井君だった。 彼はここの法律事務所でアルバイトをしている。 「13時半からでしたよね?九条先生お待ちですよ?」 「そ、そう…」 「俺は今から昼飯っす」 彼はそう言いながら、事務所のドアノブに手を掛ける。 「あっ、あのさ!」 思わず俺も彼の手を持って止めた。 「真白はー」 「天宮さん?今日は事務所に居ませんよ」 その言葉にがっかりしたような、ホッとしたような、でもやっぱり残念な気持ちになった。 「夕方まで九条先生の代理で、講演会の代理出席です。前に座って聴くだけだから大丈夫~とか言われてましたよ」 そう言いながら三井君は怪訝表情で彼の手を掴む俺の手を見る。 「あっ、ごめん」 彼から手を離す。 「天宮さん、体調崩して3日ほど休んだわりには顔色も元に戻らないし、何かありました?」 何も知らない三井君が、真白の情報をくれる。 体調崩して3日ほど休んでいた? 顔色が元に戻らない? 「仕事出来る状態じゃないんじゃないか?」 「いや、仕事はしてますよ。ミスもないし。ただ、あんまりしゃべんなくなったからつまんなくて」 彼はそう言って笑いながら扉を開けた。 「九条先生!墨さんいらっしゃいました~」 事務所の奥に見えたのは、デスクについている九条先生の姿。 俺を見て、軽く手を上げた。 俺は会釈する。 「来客室にご案内して、すぐ行く」 九条先生はそう反応した。 俺は三井君に案内されて来客室のソファに腰を下ろす。 九条先生を待つまでに、三井君は冷たいお茶を持ってきてくれて、その後入れ替わるように九条先生が入ってきた。 先生はソファに腰を掛けながら俺の表情を見て、 「君も顔色が悪いね」 と言った。 君も… もう一人は、真白を指していることはすぐにわかった。 「真白は…どんな様子ですか?」 思わず聞いてしまう。 「…別れたんだって?」 九条先生に問いかけられる。 思わず言葉が詰まった。 やっぱりそうだ…俺達は別れたんだ。 第三者に言葉にされると、より痛感する。 「墨君、ちゃんと食べてる?随分痩せたように思うけど…」 「あっ、食べてます…」 食べてるけど、 「でも、吐いてしまうことも多くて…」 「それは体調的に?精神的に?」 そう問い掛けられて、俺はさっきの電車での出来事を話した。 九条先生は何も言わずにジッと最後まで聞いてくれた。 「何かの拍子に思い出す…PTSDの症状だね」 「はい…」 「病院行ってる?」 足を骨折して入院している間と、通院リハビリの間に数回カウンセリングは受けた。 だけど、それから何もしていない。 「病院には通った方がいい。ちゃんと立ち直る為にも…」 「はい…」
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