2. 裁判のはじまり

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「罪じゃない…?」 「そうだ」 そんなことない。 “恭ちゃん” 真白の泣き顔。 “どうして…恭ちゃん” ボロボロに傷付けた真白の顔が鮮明に浮かぶ。 俺が嵌められなきゃ、真白をあんなに傷付けなかった。 「俺がもっと警戒すべきだったんだ!罪がないわけない!あんなにも真白を傷付けておいて、罪がないわけないッ!」 「君に罪も落ち度もないッッ!」 それでも九条先生はきっぱりと言い切る。 「もし、天宮さんが被害に遭ったら、君は天宮さんを責めるか?」 「…真白?」 意味がわからず言葉を飲み込む。 「天宮さんが被害に遭ったら、例えば私や三井君が加害者になって彼女が被害に遭った場合、君は天宮さんを責めるか?」 「そんなこと!!あるわけない!」 「絶対ないと思って遭った被害だったんだろ?彼女にだって100%起きないなんてことはない!私が彼女を襲ったら、君は天宮さんを責めるか?」 「真白は何も悪くないのに責めるわけないッ!!」 「レイプされて子供を宿したら君は彼女を棄てるか?」 「まさかっ!?やめてくれ!!冗談でも―」 俺はテーブルを叩き立ち上がって九条先生を睨み付けた。 九条先生は座ったまま俺を見上げる。 「今の君の気持ちが、天宮さんの気持ちだ」 九条先生は静かに言った。 息を上げる勢いの俺。 「確かに、MDMA検出判定が出る前までは疑心暗鬼だったと思う。だけど、君は、薬を飲まされたんだ。天宮さんだと思ったことも、行為があったことも、それは薬を飲まされたから。君は100%被害者なんだよ」 そう言われて、倒れ込むようにソファに座る。 「君と話していると加害者への怒りをほぼ感じ取れない。自分を責めて責め続けてる」 テーブルに両肘をついて頭を抱える。 「裁かれるべきは加害者だ」 九条先生の言葉に、どうしようもなく込み上げてくる感情があった。 「元来、男が女に負けるはずかないとか、負けたら恥ずべきことだと、早い時期から男は世間にそう叩き込まれる。男性被害者の多くは、その固定観念に苦しみ、被害に遭ったことを羞恥心に感じ、罪悪感を感じ、沈黙し自分を責める」 そう… なぜ俺は、俺よりも弱いはずてあろう麗美さんに… 身体の大きさも力も俺の方がある… 「君は薬を使われたんだ。それは抗えるものじゃない」 「だけど…俺は…真白を間違えっ…」 それが一番ゆるせない。 「そう言う薬なんだ!君が間違えたんじゃない。そう言う幻覚を見せる薬なんだよ」 グッと唇を噛み締める。 涙が伝う。 「責める相手を間違えちゃいけない。君は被害者なんだよ」
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