2. 裁判のはじまり

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来客室からボロボロになって出て来た俺を、三井君は目を見開いて見た。 九条先生に、 「天宮さん、16時半くらいに戻ると思うけど…」 と教えて貰った。 体調を崩している真白が心配だった。 一目でも見て、様子を知りたいと思ったけれど、自分自身もこんな状態で、真白が俺を見たら余計に辛くなるのではと思った。 「今日は…帰ります」 そう言ったけど、彼女を感じたくて、少しだけど真白のデスクを見せて貰った。 彼女がいつも座っているであろう椅子の背凭れに手を置き、綺麗に片付けられたデスクにも反対の手を置いた。 …真白。 どうか…早く、元気になって… 無理をしないで… 辛かったら誰かを頼るんだ… 俺が言えた立場じゃないけど、そう念じた。 「三井君…」 「はっ、はいッ」 なぜか俺の呼び掛けに返事し立ち上がる三井君。 「真白の力になってやってくれ…」 「えっ、あっ、はい。もちろん!」 戸惑いながらも三井君はそう応えてくれた。 「九条先生…」 俺は九条先生を見る。 「うん、わかってる。大丈夫だから」 九条先生は何も言わずとも、そう言ってくれた。 俺は真白のデスクや椅子から手を離し、姿勢を正して九条先生に頭を下げた。 そして、静かに事務所を後にした。 「九条先生!今の何!?天宮さんと墨さん、別れたんですか!?」 三井君の声が聞こえて、思わず少しだけ笑えた。 電車が混む前に近所の最寄り駅まで帰る。 本当は真白に逢いたかった。 逢いたくて、逢いたくて、仕方がなかった。 だけど、自分がおかしいことは気付いているし、それで真白を傷付けることになることを理解していた。 俺は、真白と別れた土手に行き、斜面に座り込んだ。 この土手は、昔何度も真白と歩いた。 春にはつくしなんかが生えて…調理したらそれを食べることも出来ると教えたら、真白は一生懸命土筆を取っていた。 実際調理して食べたら、真白は苦さにノックアウトだった。 金のない、同棲初期の話。 たんぽぽの綿毛も彼女は好きだった。 見つけたら子供みたいによく吹いていた。 “飛んで行く様がかっこいい” 真白の独特の感性だと思った。 “真白…愛してるよ…” 彼女にはじめて“愛してる”と言ったのもこの土手。 真白は目を潤ませた。 唐突だったようで、驚いてもいた。 “もう一回、もう一回言って、恭ちゃん” “おかわり!おかわりちょうだい” と言う真白に、 “また今度” と言ったのは、めちゃめちゃ照れたからだ。 彼女からしたら、唐突だったかもしれない。 でも、ずっとずっと、 何度も心の中では囁いていた。 あの日、真白を見つめて、思わず気持ちが溢れたんだ。
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