2. 裁判のはじまり

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夕日が綺麗に沈んでいく。 それをじっと眺める。 “墨君、これは長く弁護士をやってきた勘だ。このままじゃ君はこの事件で未来まで奪われる。潰れてしまうよ” さっき、九条先生に最後言われた言葉。 “裁判は精神的にもっと辛くなる。ちゃんと自身と向き合うんだ” 片膝立てて座り込んでいた膝の上でギュッと拳を握った。 それで何度も額を打ち付ける。 何度か打ち付けた後に、そのまま膝に顔を伏せた。 真白が大粒の涙をポロポロ溢しながら言った言葉… “私を……この苦しみから解放して…” あれは… “恭ちゃん……この苦しみから抜け出して…” そう言っていたんじゃないか? “私を解放してください…っっ” あれも… “楽になって…元に戻って…闘って…” って、そう言ってたんじゃないか? ギュッと拳を握る。 膝から顔をゆっくりと上げる。 このままで、いいはずがない。 夕暮れの土手。 視線の先の原っぱに、たんぽぽの綿毛を見つける。 “飛んで行く様がかっこいい” 飛んで行く綿毛を見つめながら言った真白の言葉。 真っ直ぐ見つめた横顔が愛しかった。 パンツの後ろポケットからスマホを取り出す。 タップして画面を開き、アドレスから電話番号を引き出して電話を掛けた。 耳に当て、何度かの呼び出しコールで通話になる。 「…もしもし。すみません、診察の予約をお願いします」 前を向くよ。 真白… 真白が俺を解放したんだろ? 綿毛のようにかっこよくは飛べていないけれど、いつまでも茎にしがみついて残るわけにはいかない。 真白が吹き掛けてくれた息を無駄にはしないよ。 風に乗れるかわからないけれど、飛び立ってみるよ。
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