23. 芍薬の花

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残りの4日間の試験を、真白は全て受けることが出来た。 ネットで調べたりして、体調の戻りは三者三様だと認識し、心配していたけれど、真白は翌日の日曜日までゆっくり過ごし、4日間の試験はベストコンディションとは言えないけれど、腹痛や貧血等の症状は出ずに試験を受けられた。 医師が言っていた通り、俺達の子は“お母さんの身体を労った”んだと思う。 試験を終えて、その結果待ちの数週間の間に、俺達は吾郎さんの居る淡路島を訪れた。 「そうか……そんなことがあったんか」 庭で飼われている豆柴の“悟空”と真白が戯れているのを居間から窓越しに眺めながら、俺が話した俺達の話に、吾郎さんは小さな息を吐くように言った。 「…うん」 真白の身体は順調に回復していた。 「可哀想に…。何でや…」 庭に居る真白に目を向けて、呟くように言った。 「…俺が悪い。全部俺が悪い…」 避妊しなかったこと。 不安を有耶無耶にしようとしたこと。 真白の現状を知りながら、真白に甘えてしまったこと。 「…そやな。どっちかって言うたら、恭一郎が悪いな」 吾郎さんはそう言いながら痺れた足を組み換えす。 「そやけど、そうやってお互いを支えて乗り越えようとしとったんやろ?」 その問い掛けに俺は小さく頷く。 「そら、いつでも何でも理性を保って正しい方法と行動で生きていくのがベストやで。そやけど、そんなん無理やろ。男と女は特別な方法で安心を共有することが出来る。一番シンプルで尊い営みや」 吾郎さんはそう話ながら、俺のお猪口に熱燗を注いだ。 「それを否定したり、異議を唱えるなんてこと…俺には、ようせんわ。聖人君子ちゃうからな」 そう言って自分のお猪口にも熱燗を注ぎ、吾郎さんはグイッと飲んだ。 「愛する人に溺れて不安を取り除きたい。愛する人を安心させたい。愛する人と分かち合いたい…言葉じゃなくて、お互いにそうなったんは、二人が互いに手を取り合ってるからやと思うで」 「…吾郎さん」 叱られるかと思ったけれど、誰も俺を責めなかった。 「真白のご両親も“今回は残念だったね”って。俺、天宮の父に“司法修習中に何してるんだ”って責められてもおかしくないと思ってたんだけど…」 そう話すと、吾郎さんは鼻で笑った。 「天宮のお父さんかて男やから、気持ちはわかると思うで?」 と、笑った。 「天宮のお母さんは大丈夫やったんか?」 「うん。2日ほど様子を見に来てくれたけど“思ったよりも落ち着いてるから”って長居されなかったんだ」 「二人を見て大丈夫やと思いはったんやろ」 …カラカラッと居間から廊下を挟んである掃き出し窓が開いた。 「お酒、足りてますか?」 開いた窓から真白が身を乗り出して問い掛けてくれた。 「外は寒いやろ?真白ちゃん、そろそろ中に入っておいで」 吾郎さんはそう言いながら熱燗の徳利を持って中を確認する。 「もうあらへんわ」 そう言った吾郎さんに、真白に笑顔を向ける。 「じゃ、キッチンでつけてきますね」 「あっ、真白いいよ!俺がするから」 「いいのいいの。裏口回って中に入るから」 俺が行こうとしたけれど、真白は窓を閉めてキッチンの裏口へ回って行った。 「供養はしたんか?」 「うん。先週、二人で行ってきた」 吾郎さんの問い掛けに俺は答えた。 「また、すぐ、戻ってくるわ」 そう言って貰えると、少し救われる。
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